第7話 アンダースタンディング
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分の卑屈さが嫌になってくる。
戸惑う私の背中を押してリビングまで招き入れた九宮さんは、暖かいココアを出して向かい合った。
若い女性だ。記憶にある母より一回りほど若く、おばさんよりお姉さんがしっくりくる。
キッチンでマグカップにお湯を注ぐその背中に、私は何と声をかければいいか思案した。
「さ、飲んで?体を温めるならやっぱりココアよココア!真人くんも一押しよ!」
「あの……はい」
言われるがままにココアを啜る。
最後にココアを飲んだのは、多分、母が死ぬ少し前。
それっきり、ココアは一切口にする機会がなかった。
甘さの中に混じるほんの微かな苦みがアクセントとなる味が、熱と共に体に沁み渡った。
突然ずぶぬれで押しかけてきた、何がしたいのかも分からない一人の子供。そんな関わり合いになりたくないような人種に与えるにはもったいないような、気遣い。
「……優しい味がする」
「でしょ?」
九宮さんは満足そうににっこりと笑い、自分もココアを飲んだ。
この人の発する言葉は全て行動と伴っている。故にその一つ一つに私が怯えたり疑う隙がない。
それを優しいと呼ぶのなら、この人はきっと優しい人だ。
彼女の優しさが、不思議と頑なになっていた心をほぐしてくれている気がする。
九宮さんの事を何も知らない筈なのに、気を許しそうになってしまうような内面的な明るさ。母に感じた様なぬくもりというか、包容力、あるいは母性を感じさせるその姿に、私の心は傾いていった。
「それで……貴方、真人くんのお友達かしら。名前は?」
「……千代田来瞳です。風原くんとは……その、クラスメートで」
「そっかぁ。そっかそっか」
笑顔でうなずく九宮さんの顔をじっと見る。
風原くんとどこか似ているような気もする。だけど苗字が違う。
血の繋がった家族という訳ではないのだろうか。それとも離婚とか、家庭の事情があるのか。
そんな疑問を見透かしたように、九宮さんは悪戯っぽい顔をした。
「何で私と真人くんの苗字が違うのか、って考えてる?」
「えっ……?そ、その……」
「真人くんはね、私の甥っ子なの。妹の息子でね……今は私が親代わり。私はまだ旦那さんとかいないけど、実質的にシングルマザーかな」
「そうなんですか……」
九宮さんは、テーブルサイドに伏せてあった写真立てを掴み、持ち上げる。
写真には九宮さんに似た女性と、どこか上の空な男性、そして赤ん坊が一人写っていた。
くりっとした瞳が不思議そうに写真越しにこちらを覗いている。
「これ、風原くんですか!?」
「そう。男の方が父親の風原真治で、真人くんを抱えてるのが妹の史華……可愛いでしょ、真人くん。今の姿から
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