第6話 イグノリング
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っていた自分の思考に、無数の亀裂が走る。
そんな筈はない――今日も今までと一緒だった。
でも、そうだ。
そういえば、どうして今日になっていじめっ子たちは突然私に手を出したのだろうか。
呆然とする私の耳に、また彼女の声が滑る。まるで見透かしているように。
「まなちゃんが来てから暫くいじめが減ったでしょ?あれはまなちゃんの所為で鎮静化したんじゃなくて、まなちゃんが未然にいじめっこの気勢を挫いていたから。ひそひそ話でいじめの計画をしている子を睨むようにじっと見たり、態々タイミングを計って相手の前を遮るようなことをしたり……貴方の為に」
「な、なんで……」
「さあ?今日は貴方の態度への苛立ちが勝って、敢えてしなかったみたいだけど。子供っぽいよね、そう言う所。まなちゃんのそんな大人になりきれない所、好きだな」
言葉が出なくなって、わたしは崩れ落ちるように机に手をついた。
彼は今日、怒っていたのだ。私の所為で。
本気の感情を――相手の人生と本気で関わる気でいたのだ。
私に、期待していた?今まで守ってくれていた?
私は、どうせ自分を助けてくれる人間などいないと高をくくって、彼への嫌がらせを興味本位に見ていた。そんな自分をどこか高尚な存在だと思っていた。――どこが偉いんだ、そんなの。
昨日彼があんなことを言ったのも、私の事を想ってのことだったというの?
彼の期待に沿えなかったと言うだけで、どうして私の胸はこんなのくるしくなるの?
私みたいなどうしようもない女に、どうして風原くんは真剣になるの?
頭の中に処理しきれない感情の嵐が渦巻き、もう何を考えるべきなのかさえ分からなくなっていく。
ただ、その混乱の中心にいるのは、たった一人の男の子。それだけは、分かっていた。
「分からない……分からないよ!私にどうしろっていうの!?なんで風原くんは……私なんかに、構おうとしているの」
「くすくす……本人に聞きに行ってみたら?今日は保護者の人に連れられて、もう家に帰ったみたいよ?」
私は、彼女の言いなりになるように、風原くんの住所を教えてもらった。そこに答えがあるのかどうかも分からないのに。
窓の外に広がる空は、分厚い雲が積み重なった積乱雲を、少しずつ町へと運んでいる。
あの灰色の曇りが、行き先の分からなくなった私の思いを表しているようだった。
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