第6話 イグノリング
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の扉が開いて風原くんが入ってくる。
周囲からくすくすと嘲るような笑い声が上がる。ちらちらと周囲に見られている。
みんな、風原くんがこの悪戯にどんな反応をするのか気になっているんだ。
風原くんは自分の机を見るなりその異常に気づいたらしく、眉をひそめた。
そしてつかつかと歩いて――全く関係のない手島くんの胸ぐらをつかんで壁に叩きつけた。
「え――がはっ!?けほっ……い、いきなり何する、ん――」
周囲が息をのんだ。
何の感情も持っていないような無表情で、驚くほどに平静な声で、風原くんは手島くんを見ていた。
「俺の机が荒らされて困ってるんだ。誰がやったか知らないか?」
はっきりとした有無を言わせない口調に、私は全身が総毛立ったような錯覚を覚えた。
間違いなく苛立っているのに、そんな態度を一切表に見せずに問い詰める。何もしていないのに何故自分だけが、という当然の反論さえも飲みこませる剣呑な気迫だった。
「お、俺は見てなかったから、何も――」
手島くんは浜崎くんとは友達だ。庇うのは私からすれば目に見えていた。
でも、この時私も含めてこのクラスの皆は風原くんの怖さを理解できていなかったのだ。
手島君の返答を聞いた風原くんは、無造作に手島くんの腹部に拳を叩きこんだ。
「あがぁッ!?……っ、ほ、本当だ!」
「そうか」
拳が再び叩き込まれ、苦悶に満ちていた手島君の顔から完全に余裕がなくなった。
「げほっ!?ぐ、え……な、何で……」
「俺はイラついているんだ。だから殴りもする」
また一発、今度は胸に拳を叩きこんだ。手島くんもなんとかそれから逃れようともがくが、風原くんはその度に手島くんを再び壁に叩きつける。何も言わずに、ただその手にはあらん限りの力を込めて。
周囲が悲鳴を上げる。私は、その光景に目を奪われて身動きが取れなかった。
彼が暴力事件を起こした、という話が思い出される。
今まで彼にはそんな暴力を振るうようなイメージはなかった。なのに、その直接的な恐怖は突然クラスメートにその牙を向けた。彼は――そんなことをする人じゃないと勝手に思っていた。
でも、違った。
手島くんは負けず嫌いな所もあって、喧嘩になれば勝つまで粘ろうとする。暴力から逃れるために彼は風原くんを蹴ったり、掴んでいる腕を引き剥がそうと試みるが、またそこに拳が叩き込まれた。
彼が暴力に怯えて音を上げるまで、そう時間はかからなかった。
「わ……わかった!言う!言うからやめてくれ?」
「言う?言うって何をだ?俺はイラついているからお前を殴ってるんだ。別に何も言わなくていいぞ」
誰がやったのか、など一言も聞かない。既に彼の発言は犯人探しから唯の八つ当たりに変化し
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