第6話 イグノリング
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。それだけで私は不幸にも幸福にもならない。楽しさはなくても、辛さを感じることはない。
そういうものだと一度自分を納得させてしまえば、もうそれだけで十分だった。
くすくす、くすくす。
誰かが笑っている。どこかで聞いた、不気味なまでに耳に響く笑い声。
でも、その声の主すら、今の私にはどうでもよかった。
今のこの瞬間に辛さから目を逸らして生きていける。
何の価値もないものに価値を見出すことなどしなくともいいんだ。
そんな私の横顔をまた風原くんが見ていることに、私は気付かなかった。
= =
隣の席に風原くん以外の男子が数人、集まっていた。
机の中の風原くんの私物を机上にあげ、積み木か何かのようにして遊んでいる。
ペンのキャップはどこかに捨てられる。
シャープペンシルの芯は折られる。
消しゴムには、なにやら卑猥な落書きをマジックで書きこまれていた。
何の気なしに顔を確認してみると、やっているのは浜崎くんだった。風原くんはトイレかどこかに行ったのだろう。その隙に仕返しをしようという魂胆らしい。
悪戯に夢中になっていた浜崎くんは私が見ていることなどどうでもいいらしく、周囲の何人かも面白半分に机に落書きをしたりしている。教科書もページを破られたり、唾を吐きかけられたりしている。
見ているだけで胸糞が悪くなりそうな光景。
醜悪で下卑た連中だと思ったが、関係ないのでどうでもよかった。
やがて彼らが教室を去った後には、荒らされ尽くした風原くんの机が残る。
(風原くんはどうするのかな)
今回は流石に、偶然見えていたからとは言わないだろう。見ていなかったのだし。
それに、今回は犯人が複数人だ。同じように報復しようとも、精々は浜崎くんの仕業だと推定できる程度だろう。
全員を罰することなど出来ないし、相手は集団でやれば全員にはバレないという考えに至っているのかもしれない。
彼はそのことに気付くのか、そしてどう対応するのか。
ただ怒り狂って醜態をさらすのか、それとも大人しく引き下がるのか。
――どうして私はそんな事を考えているのだろう。
何もかもどうでもいいなどと抜かしていたくせに、何故今は風原くんの事を考えているのだろう。
風原くんの言葉など当てにならないと思ったばかりだったではないか。彼はきっと恵まれた人で、私の人生を助ける味方でも、邪魔する敵でもなかった。悪い人ではないなどと自分では言っておきながら、それでもいい人間には思えない、そんな人。
彼は今日、私に何一つ声をかけて来なかった。私の変化に無関心なのだろう。
なのに、どこかその事実を気に入らないと考えている自分がいるような気がした。
やがて、教室
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