暁 〜小説投稿サイト〜
新説イジメラレっ子論 【短編作品】
第6話 イグノリング
[2/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
いじめられるし。
 なら何をやっても、そして何をされても私にとっては一緒だから。
 みんなと違って。お前たちいじめっ子とは違って。

 やりたいんなら気が済むまでやればいい。
 どうでもいいし。

 誰に嫌われようが、誰に目をつけられようが、どうでもいい。
 私が幸せになれないなら、後は何がどうなっても――どうでもいい。

 私はそんな世界で無気力に生きて、無気力に死ねば、それでいい。

 くすくす、くすくす。

 聞き覚えのある笑い声が耳を擽った。
 でも、それもどうでもよかった。



 = =



 あれから数日経った。
 何日経っても、周囲は私を奇異の目で見ることを止めない。
 それが――煩わしい。

「あれ、来瞳ちゃん今日も元気ないね?なんかあったの?」

 喧しい。

「千代田さん、あの……いや、なんでもない。ごめん……」

 鬱陶しい。

「ねぇ、クルミ?クルミってば!!」
「……何?」

 どうでもいい連中が、どうでもいい話を振ってくる。
 私のことなどどうでもよく思っていて、私の人生に関わることもないような案山子。喋る案山子。隣人のふりをした唯の他人が、体面だけ保って馴れ馴れしくも話しかける。

「何って……今のアンタ酷い顔してるわよ?大丈夫なの?」
「別に……」
「ねぇ、クルミ?本当に大丈夫?無理してない?」

 さも心配そうな顔で覗き込んでくる香織のいたわりの言葉も、酷く白々しいものに聞こえた。
 彼女は味方ではないから。敵味方以前に、きっといなくても同じような人間だと思われていて、思っているから。

「ねぇ、ひょっとして家の事?力になれるかは分かんないけど、辛いんなら相談くらい――」
「いらない」

 だから、貴方の話もどうでもいい。
 香織はその言葉を受けて冷水を浴びせられたように身を強張らせ、喉を詰まらせたような苦しそうな表情を見せた。
 でも私は興味がなかったので、それ以上見なかった。
 一瞬、風原くんがこちらを横目で見た。その目には、昨日の時のような優しさは感じず、ガラス玉に覗かれているような無機質な冷たさを感じる。視線は一瞬で、すぐに私を見るのを止めた。顔色でも窺っていたのか――いや、彼に限ってそれはないか。

 周囲が私の顔色を伺っていた。でも、どうでもいい。
 普段とは違う優しい言葉も掛ける。でも、うわべだけ。
 心配されているのか、蔑まれているのか、そんな違いも気にならない。

 感じるのは空虚と、気楽さ。

 背負う物も負う物もないことが、こんなにも気楽だなんて思わなかった。もう気にしなくていいし、考えなくてもいいんだ。ただ俯瞰して、周囲の全てを「どうでもいい」の一言だけで片づければそれでいい
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ