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新説イジメラレっ子論 【短編作品】
第5話 ウィーピング
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 我慢しよう。そうすれば今は乗り切れる。
 我慢しよう。明日には終わっている。
 我慢しよう。いつかは終わる。
 我慢しよう。
 我慢しよう――

 いつまで、我慢しよう。

 運が悪かった、のだろう。
 帰り道に風原くんと話したというただそれだけの内容ですら、父にとっては怒りの対象らしい。
 偶然その場を目撃された私は、家に帰るなり髪の毛を引っ張って無理やり家の奥まで連れ込まれ、壁に叩きつけられた。

「あのガキと、何を話していたと……聞いてるんだッ!」

 骨が折れるかと思うほどの衝撃。振りほどこうにも、酒が入っているとはいえ成人男性である父の太い腕にこの細身では抗えない。倒れて咳込む私の肩を無理やり掴んで、更に締め上げるように壁に押し付けた父は、血走り濁った瞳で怒鳴り散らした

「痛ッ!やめ……な、なにも話してなんか――」
「馬鹿にしていたんだろう!自分の父親をっ、俺をっ!この、クソガキぃぃ!」

 ここ数年、父の被害妄想は急激に増えている。
 機嫌次第だが、酷い時は前を通っただけで自分をないがしろにしたと怒鳴ることさえある。
 もはや私には父がどのような思想で行動しているのか、全く分からない。唯一発見できた対処法が、可能な限り父の視界と意識から逃げて体を小さくすることだけ。
 荒々しくぜいぜいと吐き出される息は口臭とアルコールが混ざり下水のような汚臭になり、私の顔に降りかかる。

 今の父は――目がくぼみ、顔に油が滲み、ふけに塗れた頭をがりがりと掻きながら掴みかかってくる父は、母がまだ生きていた頃の面影はどこにもないようにさえ見えた。その事実を見せつけられるのが本当は暴力と同じくらい辛い。

「す、スズメ……スズメを持ってたから、声をかけただけなの!」
「嘘じゃないだろうなっ!父親に適当な嘘をついて、ぜえ……ぜえ……俺を見下しているんだろう!俺は家主だ!お前の飯を食わせているのも、学校に金を出してるのも俺だ!!」

 父は私の手首を掴んで、無理やり立ち上がらせた。
 痛い。掴まれた腕も、肩も、強引な動きに引きちぎられるほどの痛みを走らせた。
 今の父をしたら、母は何というだろう。そう考えると、目の前の人間は実は父ではないのではという得体の知れない恐怖が心臓を鷲掴みにする。

「イヤァァァァッ!?痛い、痛いぃぃ!……うっ、嫌ぁ……」
「俺のおかげで俺は生きてるんだ!俺を、俺を見下して笑うような事は許さねえぞ、来瞳ぃぃっ!!」

 痛みと恐れ、そして悲しさが押し寄せる。
 昔は優しい父だった。母と一緒に笑顔で食卓を囲んだり、学校のテストでいい点を取ったら喜んでくれたり。お母さんの家事を手伝っていれば褒めてもくれたし、家族旅行にだって何度も行った。
優しかった
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