第5話 ウィーピング
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ている現場を見ていたのなら、その場で取り押さえれば取り返せただろう。なのに、何故風原くんは盗むという選択をしたのだろう。だって、そんなことをすれば自分が犯人だと周囲には気付かれる。周囲に自分が泥棒だと告げているようなものではないか。
だがそんな疑問に風原くんは、私の考えの及ばない返事を返してきた。
「馬鹿言え、それじゃ受け身の対応だ」
「受け身……?どういうこと?」
「トラブルが起きるたびにそれを相手にするのは、向こうの望んでることだろう。そうやってムキになったり必死になってるこちらを見て楽しんでるんだ。ならそんな連中の思惑通りに動いちゃナメられる。だから……反撃」
「逆に盗み返すことが反撃なの?周りに泥棒だって思われちゃうよ!」
「――それの何がいけない?」
風原くんはあっさりと私の考える前提を無視した。
「重要なのは、喧嘩を吹っ掛けるとその代償が返ってくる相手だと思わせる事だ。俺はお行儀がよくないんでな……あんな連中のペースに合わせたりはしない」
「……先生に頼るのは――」
「お前自身が頼ってないのにそれを言うのか?」
「ッ!!」
はっとして、立ち止まった。
確かにその通りだと、悔しいけれど合点してしまった。
それと同時に、そういえば私も先生を頼るのを止めていたことを思い出した。頼っても仕方ない、頼ったら悪化する。あの人たちは何も分かっていないと、勝手に軽蔑していたことを。
先生は他の人の味方ばかりして、わたしだけ助けてくれない。そんな理不尽を感じていた。言葉には出さずとも、ずっと思っていた。
でもそれは一人だけの認識ではなくて、他の人にとっても同じ側面が存在するのだと。
風原くんは立ち止まった私を待とうとはせず、そのままつかつかと歩いた。
そして、振り向いて一言だけこう言った。
「大人など役に立つものか。自分の身は自分で守れなきゃ、お前はさっきのスズメ以下だ」
その言葉と、夕日に照らされた彼の切なさを感じる表情が、目にひどく焼きついた。
スズメは自力で巣立っていった。
親元から離れて、当てもない野生の生活へと飛び立った。
私はどうだろう。頼るのは無駄だって思いながら、未だにお父さんと一緒に暮らして、先生の事を頼る対象に挙げた私は。
でも――きしり、と心のどこかが軋みをあげる。
(風原くんは強いからそんなことが言えるんだよ……スズメだって翼がある。どっちも持ってない私にはどうしようもないじゃない……)
1人その場に取り残された私は、奥歯を噛み締めてスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
結局は耐えるしかない。風原くんは敵にはならないけど――決して味方ではないんだ。
そういうことだと実感せざるを得なかったから。
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