第5話 ウィーピング
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ぼうに返事をして、風原くんは前へ歩みを進める。
私は慌ててそれを追いかけて、隣に並んだ。風原くんはそんな私の事を居心地悪そうに見るが、止めろとは言わなかった。
家族の人もこんな風に素直じゃないんだろうか?
母親はどんな人だろう。兄弟とかいるのかな。風原くんはいつからこんな風なんだろう。
そんなことを想像すると、余計に風原くんの家庭事情が気になってきたりした。
あんな態度では家族内で孤立したり、怒られたりしないんだろうか。ひょっとしたら今も上手くいっていないかもしれない。
だけど、推測は推測。
それとは別に、私は風原くんがちゃんと答えてくれそうな質問をもう一つ持っていた。
「ねえ。きょう浜崎くんと言い争ってたけど、なんで浜崎くんに疑われてたの?」
浜崎くんは他人にそうそう食ってかかることはしない。むしろ他人が困っているのをニヤニヤしながら見ているタイプだ。それがあんなにも怒っていたのが気にかかっていた。
横目でこちらをちらりと見た風原くんは少々の間だけ思案し、口を開く。
「俺が教科書を失敬したからに決まってるだろ」
「え……」
凍りつく。
「な……なんで盗んじゃったの?」
「別に盗んでない。ただ――」
そこで言葉を切って、風原くんは悪戯っぽくフッと笑った。
「浜崎が俺の机から教科書を持って行くのが見えたんでな。丁度浜崎の教科書が俺のと同じく名前を書いてなかったから、代わりに貰って行っただけだ」
そこに至って私は漸く事の全容を知った。
浜崎くんは元々男子側のいじめっ子グループに属する人だ。そんな彼が、風原くんが危険だ危険だと騒がれつつも実際には手を出してこないのをいい事に、悪戯を仕掛けたのだ。机から教科書を抜くという悪戯を。
それを偶然目撃した風原くんはそれを敢えて見送り、浜崎くんが出て行ったタイミングで教室に入って彼の教科書を抜き取り、何事もなかったかのように自分の物として使用。
後になって自分の教科書が無くなっていることに気付いた浜崎くんは、教科書を持っていない筈の風原くんが教科書を所持していることに気付いて、風原くんが犯人だと確信した、という事だろう。
取り返そうにも浜崎君は「俺が盗んだはずなのに教科書を持ってる!」などと公言する訳にもいかない。彼にとっては残念ながら証拠もない。状況証拠を訴えれば自分の行為に関して追及を受けかねない。よって、見逃すしかない。
「教科書は新品同様で綺麗なものだったぞ。今まで碌に使ってなかったんだろうな」
「な……なんで取り返さずにそんなことを?ダメだよ泥棒なんて!」
「正義論か?関谷みたいなことを言う」
「今は関谷くんは関係ないでしょ!盗まれたんなら取り返せばよかったじゃない!」
盗まれ
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