第4話 アプローチング
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
べ、別にそんなことは」
褒められたような気がして何だかこそばゆい。ついつい体をもじもじさせてしまう。
しかし香織の口調はそれを称賛しているのではなかった。低く、どこか懇願するような響きの声色で、香織は私を諌めた。
「でもねクルミ……相手を選びなさいよ相手を。私、一瞬アンタが死んだんじゃないかと思ったわよ………」
香織は本気で気を揉んでいたのか、その表情には強い精神的疲労が見えた。
少し意外に思った。もう少しドライな人間だと思っていたけれど。
それだけ本気の心配だったのかと思うと、それも少し嬉しくて、私は笑顔でこう言った。
「大丈夫」
「大丈夫って……どこがよ!あんな不良に食いつくようなこと言って!」
「大丈夫なの。だって……風原くん、きっとそんなに悪い人じゃないから」
「………………はあ?」
こちらの言うことが心底信じられないとでも言うように首を傾げた香織の姿が可笑しくて、私は隠しもせずに小さく笑った。
風原くんはきっと、私の弱気を嫌っていたのだろう。
だけどそれは、負け犬呼ばわりされたくなければ意志を見せてみろという激励だったのかもしれない。だって彼は自分から人に声をかけないのに、私にはわざわざ面と向かって「大嫌い」とまで言ったんだ。
(ほんの少しでも、私に期待してくれてたのかな)
麗衣の言ってたことは本当なのかもしれないと、今になって私は思い出した。
横を見ると、何事もなかったように教科書を片づける彼の横顔。
でも、さっき一瞬だけ聞こえたあの言葉はきっと彼の本心からの物で。
(優しいくせに不器用で、嫌いだって言いながらも私の事を見てる)
それは私の表面だけではなく、内面も見てくれているようで。
そんな風原くんの思いを想像すると少し可笑しいけれど、同時に心が温まる。
風原くんは私の敵にはならないって、なんとなくだけど信頼してしまった。
私ってば何考えてるんだろうと自分につっこみを入れて、ふと周囲の異変に気付く。
「……?なんか向こうが騒がしいわね」
「え?……あ、本当だ」
いつのまにか考えに没頭していて察せなかったが、クラスは騒然となっていた。
「……教科書を盗んだ?俺が、お前のをか?」
「そうだ!!お前しかいないんだよ!お前しか!!」
生徒の一人――浜崎くんが風原くんに食ってかかっていたからだ。
浜崎くんは顔を真っ赤にして訴えていたが、それに対して風原くんの表情は到って冷ややかだった。
「だがこれは俺のだ。別の奴に盗まれたか、家にでも忘れて来たんじゃないのか?」
「ふざけんな!朝に来た時まではあったんだ、お前が盗んだんだろう!自分の教科書が無かったから?」
「何を言ってるんだお前。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ