第4話 アプローチング
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信じられない。
先生に反論するばかりか、クラスそのものを馬鹿にするような言葉を平気で吐いてなお、そんな態度が学校内で続けられるところが。見ていて少しハラハラしてしまうほどだ。
誰も彼の思想を正す事が出来ない。その協調性の無さを咎めても、彼は気にしない。
誰にも味方されない独りぼっちの現状にに辛さを感じている様子もない。
そんな彼に、私は負け犬と呼ばれた。
でも、私はそんなふうに完全に孤立しても平気な顔をしていられるほど強くない。だから仕方ないじゃないか。そう思った。
風原くんはそんな私に、きっとこう言いたいのだろう。
――その言葉を外に出さないからお前は負け犬なんだ、と。
一瞬だけど。
ほんの一瞬だけど、そう考えた私の心の内にあった勇気が、力を持った。
その勇気を奮う時はきっと今しかないから――そう思った時には、私は立ち上がっていた。
突然立ち上がった私を周囲は唖然として見ていたが、もう今だけはクラスで目立っていることもどうでもいい。机をずらし、椅子をずらし、私は机を無理やり風原くんの横につけた。
風原君も私の突然の行動に驚いたのか、咄嗟にこちらを見上げた。
一瞬呆けたようなその表情を見る事が出来ただけで、動いた価値はあったかもしれない。
密かな優越感。彼の不意を衝いて反撃できたという小さな優越感を噛み締めながら、私は席に座る。
「見せてくれなくてもいいよ。勝手に盗み見するから」
「……そうかい。なら言った通りに勝手にすればいい」
驚いた表情を急いで仕舞い込んだ風原君は、相変わらず無愛想だった。
でも気のせいでなければ、彼は密かに小声でこう言っていた。
――やればできるんじゃないか、と。
「……で、先生。そろそろ授業を再開してもいいと思いますけど」
「あ………ああ、そうだな」
一瞬の事態にクラスメンバー諸共呆けていた先生は、一瞬だけ何か言いたげに風原君の方を見たが、やがて諦めたように授業に戻った。
きっと言いたいことをまとめきれなくて保留したんだろう。保留した意見を次に放出できるのはいつなのかも分からないままに。ひょっとしたら二度と機会はないかもしれない、と私は思う。
風原くんがそう言う態度を取るのなら、こっちだってそれに倣って応戦する。
ひょっとしたら、それが風原くんと付き合っていく唯一の方法なのかもしれない。
クラスのどこかから、くすくす、と笑い声が漏れた。
= =
授業終了後、私はなんだか恥ずかしくなって静かに風原くんから机を離して元の場所へと戻った。
前の席から掛けられた聞き覚えのある声がかけられる。香織だ。
「クルミぃ……あんた、やればできる子だったのね」
「……
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