第4話 アプローチング
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くれればそれですべてが解決するのに。私はこんな躊躇いに縛られずに損もしないのに。
彼は、そんな私の願いに答えることなどしないだろうと分かっていただろうに。
「その………ううん、なんでもない」
「…………」
風原くんは、何も言わない。
自分がどう思っているかも、私が何を言おうとしたのかも――決して口にはしなかった。
やがて授業が始まった。
授業は、わたしが教科書を持っていないことに気付かない先生によって滞りなく進んでいるかに見えた。だが、予習をしたとは言っても全てを網羅している訳ではない。私は次第に先生の授業について行けなくなっていった。
そして、気付かれる。
「千代田?お前、教科書は?」
「……その、忘れ……ました」
そんな彼女を見て、その隣の風原くんを見た先生はどこか納得したような顔をした。
風原くんは取っ付き辛い生徒であることに間違いはない。だから、隣が彼であることに気付いてこちらの心情を察してくれたのだろう。私にとっては有り難い事だ。
黒板に向かうチョークの手を止めた先生は風原君の方を向いた。
「風原。意地悪しないで千代田に教科書みせてやれ」
「意地悪なんてしてませんよ。ただ言われなかったから必要ないと判断しただけです」
驚くほどスムーズに、そして淡泊に風原くんはそう答えた。
先生の表情に呆れが混ざる。それもそうだろう。傍から聞けばそれは屁理屈に過ぎない。クラスの秩序や社会的協調性の観点から見れば余りにも幼稚な発言だ。
「そうは言うがなぁ。横の席の友達が困ってるんだから力を貸してやろうとは思わないのか?」
やれやれと言わんばかりにお小言を始めようとする先生だったが、続くはずの言葉を遮るように風原君は語り出す。
「第一に、こいつは俺の友達ではありません。第二に、こいつが困っていようがいなかろうが俺には関係ない」
「お前……そんな自分勝手なことばかり――!」
「第三に、こいつは俺に教科書を見せてほしいなんて一言も言ってない。本気で困ってるなら見せてほしいと言うはずなのにそれをしない。ならそんな中途半端な奴に力を貸してやる理由がありますか?」
「それはお前の理屈だろう。気が弱くて言い出せない子だっている。そんな時に力になってやるのがクラスメートじゃないのか?」
「周囲の環境に甘えてるだけの人間を助けて青春ごっこですか?――俺はそんな甘ったれは助けたくないし、助けない」
そう言いくるめると、風原くんはもう喋ることはないと言わんばかりに一方的に話を断絶した。
クラスがざわつく。先生の目が、信じられないものを見るように見開かれる。屁理屈こそが自分の理屈だとでも言うように、彼はそれっきり口を閉ざした。
私は、風原くんのこういう所がいつも
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