第3話 ウォッチング
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は眉一つ動かさずに二言。
「さっき床に落ちてたのを拾った。汚ぇからお前にやる」
「き、汚いと思ってる物を普通人にあげる……?」
「皮の内側には関係ない」
発言の内容は最悪に近かったが、ともあれ彼の気まぐれでどうにかデザートにあり付けそうだ。
素直にお礼を言う気が全く起きないのだが、タイミングよく現れてくれたのでこちらも助かった。
これからはみかんを盗まれない方法を考えようと誓った。
= =
西済麗衣は見ていた。
千代田来瞳に渡されたその冷凍みかんがどこから渡ってきた物なのかを。
あれは床に落ちていたものなどではない。手島が持っていた盗難みかんだ。
風原真人は手洗いから教室に戻り、ひとつだけ冷凍みかんが複数キープしてある机を発見し、その直後に千代田と関谷が何やら話しているのを見つけ、彼女の盆にみかんがない事に気付いた。だから普通に歩きながら、さりげなくその山よりみかんを一つ盗み取って何食わぬ顔で席に座り、盗んだみかんを手渡したのだ。
千代田さんはそれに気付いているのかしら、と含みのある笑顔で麗衣は笑う。
きっと気付いてはいないだろう。
気付かないままにあのみかんを食べ終えるだろう。
風原真人という男が、影ながら彼女の厄介を感知したうえで動いていたとはまだ思っていないだろう。
でもいずれ知ることになる。
気付かないなら麗衣がそのことを知らせるから。
出来るだけ面白いタイミングで、彼女の意志がゆらぐような機を見計らって教えよう。
そうしたほうが面白そうだし。
面白いと言うのは重要な事だ。
私はいつも面白さ本位で行動しているし、快楽を追求する事は人が生きるうえで最重要だと思っている。
例えば千代田さんが虐められてるのも、周辺の女の子にふっと声をかけてみただけだし。
ただ、嫉妬心を少しだけ煽った上で、その醜い感情を肯定するようなことを言っただけだ。
手島くんにも声をかけたことがあった。
彼のいたずら心を肯定してあげただけで、彼は随分とふてぶてしくイタズラするようになった。
本人なりにムードメーカーのつもりでいるらしいが、周囲の心が段々と自分から離れている事には気付いていないだろう。教えては上げないけれど。
関谷くんに千代田さんを気に掛けるよう仕向けたのは、予想以上の効果だった。
元々彼は千代田さんに気があったらしく、彼女の事となると空回りしている事にも気づかず全力だ。
いじめの実情は一切知らないという事を考えるととても滑稽で面白かった。
他にも何人も、ふと心の一カ所を肯定してあげるだけで面白いぐらいに人は変わっていく。
それをくすくす笑いながら見ているのが、一番楽しい。
だけれども
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