第3話 ウォッチング
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「みかん、あげたの」
「あげたって……誰に?」
問われて、誰なら通じるか考える。
こんな時に機転を利かせてくれそうな香織は給食当番でまだ席にはいない、となるともう頼れそうな人間がいない。かといって手島くんにあげたと言えば、無理やり持って行かれたのではと騒ぎ立てられる。
どうする、どうする――
「か、風原くん……そ、そう。風原くんにあげたの。冷たいものはちょっと苦手だから……」
咄嗟に出てきた名前がよりにもよって……と後悔したが、今を乗り切れればもうそれでいい。
「風原、に?……でも風原はそこにはいないみたいだけど」
「と、トイレに行ってるんじゃないかなぁ、なんて」
「冷たいものが苦手って言うのも初めて聞いたよ?」
「と、時々冷たいものが染みて……はは、は。虫歯かなぁ?」
「それに風原とは別に仲がいいわけでもないでしょ?何でまた今日になって――」
席が近い事を除いて接点のない風原くんの名前が出てきたことで、関谷くんが訝しげにこちらを見てくる。既に手島君の方に向かってはいないから手は放したが、今度は私の隠し事を疑い始めたらしい。
こっちとしては大きなお世話なので早くどこかに行ってほしいのだが。
どうしよう、もうこれ以上は誤魔化す方法が思いつかない――と諦めかけた刹那。
かたん、と椅子が鳴って一人の男子が向かい側の机に座った。
向かい側――風原くんの席に、風原くんが戻ってきた。
気が付いたら風原くんの給食盆には冷凍みかんが2つ乗っており、図らずとも私の嘘と辻褄はあっている。
「……お前か、風原」
「何か用か?」
それでも関谷くんは風原くんの事を快く思っていないためか、まだ納得していない顔だ。
「お前、千代田さんを脅したりしてないだろうな……!」
「……何で俺がそんな七面倒くさい事をしなきゃならん?」
「しらばっくれるなら別にいいがな。もしもお前が千代田さんに手を出すようなことがあったら、僕は許さないぞ……!」
「そうかい」
「……っ、ふん!」
興味なさ気な風原くんの返答に一瞬だけ悔しそうな顔をした関谷くんは、踵を返して自分の席へ戻っていった。
なんとか乗り切った、と大きなため息を吐く。冷凍みかんにここまで踊らされるとは思わなかった。唯の凍った柑橘類の癖に人間並みに手ごわい。
それにしても――風原くんはどこからもう一つの冷凍みかんを持ってきたのだろう。
そう疑問に思っていると、風原くんはおもむろにそのうちの一つを摘まんで、私の方に投げてよこした。
「わわわっ!あ、危ない……」
少し前まで冷凍庫に保存されていたのであろうひやりとした冷気が指に振れる。
「これ……くれるってこと?」
何も言わない風原くんに聞くと、彼
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