第3話 ウォッチング
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友達は勿論、わたしがデザート類を盗まれても何も言わないのをいいことにひょいひょいと持って行っては隠れて食べている。もう何度も先生に注意されているが、本人は大したことはしていないと反省の色を見せない。
一度だけ関谷くんに頼んで取り返してもらおうとしたが、生真面目な関谷君に頼んだ私が馬鹿だったのか、彼は私の名前を振りかざして返してやれと大騒ぎ。言うまでもなく、その後に私はチクリ魔だの他人を利用してるだのと散々にいじめられることになった。
関谷くんは悪い人ではない。でも、よかれよかれと思って事態を悪くしたことに自分では気づかない。性質の悪いいらんことしい……それが関谷くんだ。
だから、出来るだけ私に関わらないで欲しかったのに――些細な願いはいつだって叶わない。
「あれ……千代田さんの分のみかんは?」
気付くな、気付くなと必死で祈ったが、祈りは所詮自分が考えただけのこと。現実に影響を及ぼすものではない。通りかかっただけの関谷くんがどうして目ざとく私の所だけを見ていたのかは分からないが、とにかく今日は運が私を向いていないようだ。
「おかしいな。今日は休みの人もいないし、余りもないみたいだ……まさかもう食べた訳じゃないよね?」
「……そんな事しないよ」
言って、しまったと後悔した。ここで「空腹に耐えられなかった」と言ってしまえば小言を貰って終わったのに。関谷君はじゃあ、と声をあげる。
「無くなっちゃったの?みかん……もしかしてまた手島に取られた!?」
「ち、ちが……」
「あいつ、性懲りもなくまた……!」
関谷くんの顔は真面目そのものだ。義憤に駆られ、手島くんに猛抗議しようと息巻いているに違いない。私の為に動いてくれているが、全く嬉しくなかった。
それをやると私の立場が悪くなっていくことに気付いてほしいのに、それを説明したらきっとさらに怒り出して手が付けられなくなる。下手をすればずっと君を守る、などとファンタジーな事を言い出すかもしれない。
その事を想像してゾッとする。
割と容易に言いかねない気がしたからだ。しかも彼自身が途中で飽きて止めても発言は周囲に残る。極端な話、彼が別の学校に行ったり転校しても私だけはからかわれ続ける。
彼に注目されるだけでも肩身が狭くなるのにそんなことになってしまったら、私は学校で生きて行けるのだろうか。なんとしてもそれだけは避けたい。
一直線に手島くんの所へ行こうとした関谷くんの手を止めて、必死で言い訳を考える。
「ど、どうしたの千代田さん?ぼ、ぼ、僕になにか……?」
「そうじゃなくて……その……」
彼が納得してくれそうで、それでいて通じそうな嘘。
とにかく時間がない――もう何でもいいから言うしかない。
「あ、あげたの」
「え?」
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