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新説イジメラレっ子論 【短編作品】
第3話 ウォッチング
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している。

 特に一触即発になりやすいのが関谷くんだ。
 彼はいつも独りよがりな使命感でクラスの和を保とうとしている。私が虐められていた事をどう思っているのかは知らないが、お行儀のいい彼にとって風原くんの傍若無人とも言える態度は我慢ならないらしい。
 今日も教師に押し付けられていた風紀委員としての役割を放棄したことで関谷君と口論になっていた。
 ただ、風原くんは苛立つことはあっても怒りはしない。
 だから、むしろいずれ関谷君の我慢の限界が来たときが危ないと周囲には目されている。

 こうして彼が場を荒らせば荒らすほどに――私の腰を下ろせる場所が増えていくんだ。

(これでいいのかな、私)

 不意に、自身にそんなことを問う。
 これじゃ本当にみんなが言うような嫌な女の子みたいだ。人の不幸を願い、人の不幸にほくそ笑む性悪でどうしようもない人間。

 いじめられなくなるからって、本当にこれでいいの?

 その日はそんな事ばかりを考えていたせいか家でお皿を割ってしまい、音を聞きつけた父に怒鳴られた。そのお皿は母さんのお気に入りのお皿で、それを見咎めた父によって私は家の外へと締め出された。
 父が寝た隙を見て、こっそり空けておいた窓から家に戻った。
 こうでもしないと、父は戸をあける事さえ忘れて眠ってしまうから、いつもこうしている。

「わたし、泥棒みたい」

 ここは私の家なのに――母さんがいればこんなことにはならなかったのに。
 なんで死んじゃったの、母さん。
 私を置いてくほど仕事が大切だったの。
 父さんも母さんも、私の事はどうでもよかったの?



 = =



 この天田中学校は、珍しい事でもないが給食制だ。
 休み時間になれば2列ずつ向かい合う形で机をくっつけて一緒に食事をとる。
 どうせならば一人で食べたいところだが、さすがに食事時間になるといじめっ子たちも自分の周囲とのおしゃべりに花を咲かせる。
 朝ごはんを抜かざるを得ない私にとっては、たとえお世辞にもおいしいとは言えなくとも貴重な食事時間だ。

 だが、そんな給食時間にも小さな諍いは存在する。
 例えば人気の給食のときにおかわりの量で争いになったり、余ったデザートや牛乳を巡って争奪戦が起きたり……そんな事が頻繁に起きる。いじめに比べれば実に些細で平和的な争い事だ。
 私はそんな争奪戦に参加することはない。
 やるのは食欲旺盛な男子ばかりだし、幾ら給食でも目立てば後でからかわれる切っ掛けになる。
 だから黙って見ているだけだ。

 そう――例えば目を離した隙にデザートの冷凍みかんが盗まれていても、犯人探しは決してしない。

(きっと今回も手島くんの仕業だ……)

 デザート泥棒の常習犯、手島くん。
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