暁 〜小説投稿サイト〜
新説イジメラレっ子論 【短編作品】
第2話 ムービング
[1/8]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 
「――ところで、まなちゃんは助けてあげないの?」

 不意に、鈴を転がすような麗衣の声が階段の上へと向いた。
 いつも何所を向いているのかが分からない彼女の声に、明るい色が浮かんだ気がした。
 まなちゃん――聞いたことがない。誰の事だろう。そんな微かな好奇心が、反射的に顔を上へ向かせた。

 階段の上から降りてくる影。小さな足音が、無言になった空間に響く。
 まなちゃんと呼ばれたその人は、窓から差し込む逆光のせいでよく見えなかった。
 恐らく背丈からして男子であろうその人物は、顔色一つ変えずに静かに階段を下りてくる。
 目線がちらりとこちらを向いた。だが、何の反応も示さず階段を下り続ける。普通の男子ならば、明らかにいじめが行われていると推測できる光景を見れば何かしら反応を示す。驚くとか珍しがるとか、その場を早く離れようとするとか。
 だが、彼からはそんなそぶりが一切見られなかった。

 それにしても、と思う。
 麗衣は普段、男子と親しくしている所はほとんど見かけない。クラス内では美人で有名な彼女は、話題に上がることはあっても男子たちにとっては高嶺の花なのだろう。
 そんな彼女が友人に接するような態度で話しかけるなんて、初めて見た。
 しかし当人は対照的に、眉間に皺を寄せて不快感を露わにした。

(友達、じゃない……?)

 他の女子達がその男子の登場に呆然とする中、麗衣はそんな彼の手をすれ違いざまに握ろうとして――叩き落とすように振りほどかれた。
 弾かれた手を眺めた麗衣は変わらずくすくすと笑い、そして彼は相変わらず不快感を隠さない。

「馴れ馴れしく触るな」
「テレ屋さんめー。本当は近づいて欲しいくせに……くすっ」
「黙れ。お前、俺が今日ここにいるのを知ってて態とそこの女へのちょっかいを長引かせたな?」

 ぞっとするほどに鋭い目つきだった。
 でも麗衣は、そんな目線にも何が楽しいのかくすくす笑っている。

「馬鹿な女共が馬鹿丸出しでちっぽけな自尊心を満たそうが、負け犬が悲劇のヒロイン気取りで倒れていようが俺の知ったことか。だが、五月蠅いのは嫌いだ。とっとと出て行け」
「なっ……!アタシたちがどこで何しようがアタシたちの勝手でしょ!出て行けとか言うんなら自分が出て行ったら!?」

 いじめっ子の一人が激昂して男子に詰め寄る。そんな彼女を、男子は心底下らないものを見るように睥睨した。場違いな場所に乱入する形になったことなど自分には関係ない、と態度で告げるように。

「俺が先にここにいて貴重な時間を謳歌していたんだ。それを馬鹿なお前らが下らない事をするためにやってきて騒いだ。俺はここで静かに過ごしたくて、それにはお前らが邪魔だ。だから出て行けと言っている。そんなことも分からないのか、お前
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ