第2話 ムービング
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てスリッパを投げつけられた風原くんはそれを拾い上げ――そのまま校舎内の排水路に放り込んだ。
そうなれば同級生はこれ幸いと生意気な下級生をいじめようと動き出す。ベランダを出て一直線に階段を降りて――そこで、彼に待ち伏せされていたそうだ。
彼は、やられた分をやり返すために上の階へと向かっていたのだ。
教師が駆け付けた頃には、彼を虐めようとした上級生達は凄惨たる状態だったという。
ある者は血塗れの手を押さえて泣き叫び、ある者は真黒く腫れあがった脚を抱えて悲鳴を上げ、またある者は完全に気絶して階段に横たわる。そしてそんな恐ろしい光景を見た教師の目の前で、風原くんは上級生に馬乗りになって暴力を振るっていたそうだ。
上級生はその半分以上が病院送り。風原くんは退学こそ免れたものの、つい最近までずっと自宅謹慎の状態だったそうだ。
全てを勢いよく話し終えた香織は、私にびしっ指を突き立てる。
「………つまり、アンタは!たかが中学生の喧嘩で相手を病院送りにするようなイカれた奴相手にいきなり訳の分からない事を……ああもう!とにかくいつプッツンするか分からない危険人物に自分から近付くようなことはよしなさい!」
普段は私が虐められても助けてくれないし、場合によっては加担することもある癖して、今の彼女はいやに真剣な表情だった。普段は全く押しが強い子ではなく、付和雷同という言葉の似合う芯の通らない人間だと思っていたのに。
「アンタだって暴力は嫌でしょ!?あいつ、男も女も関係なく病院送りにしたのよ!女だからって手を抜いてくれるわけじゃないんだから!」
「………心配してくれたの?」
「当たり前でしょ!少なくともアタシはアンタの友達なんだからね?」
その言葉は、正直に言えば嬉しかった。
味方でも敵でもないような曖昧な立場の彼女と一緒にいると、時々彼女のことを信頼しきれなくなる。彼女の言動の全てに裏があるんじゃないか。彼女が私に近づいていること自体が見せかけで、本当は後で私を落とすためなんじゃないか。
あるいは――私と話をしようがすまいが、本当はどうでもいいのではないか。
だから、彼女の真剣が見れたことが嬉しくて、とても久しぶりに気持ちが軽くなった。
「香織」
「な、なによ急に人の名前を……」
「ありがと」
「わっ……分かればよろしい!」
無理に明るく締めた香織は、少しだけ照れているように見えた。
だけど、私は軽くなった気持ちの裏側に後ろ暗い微かな真実を垣間見た気がした。
(あの人――風原くんを危険なものとして忌避することで、いじめっ子もいじめられっ子も関係なく共通の認識を持った。それが今の香織に繋がっているのなら……)
人が私にやさしくしてくれるには、共通の障害か、もしくは共通
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