第2話 ムービング
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私だけが気付いていないような疎外感。
除け者にされているという被害妄想的な感覚が、背中に圧し掛かる。
考え過ぎだ、と自分に言い聞かせてそのまま自分の席まで移動した私は――そこで漸く皆が私に視線を集中させている理由を知った。
「あっ……昨日の」
「………………」
昨日、あのいじめ現場に現れた男子。
学校では一度も見たことが無かったその男が――ずっと空席のままだった自分の隣の席に足を上げてどっかりと座っていた。
いかにも態度が悪いですと言いたげなほどの姿勢は周囲から注目を集めているが、誰も声をかけようとしなかった。確かに近寄りづらいが、みんな妙に腰が引けている気がする。
奇妙に思いながらも自分の席に一先ず座る。
彼はちらりとそれを一瞥し、結局それだけに終わった。
彼は何者なのだろう。
そんな漠然とした疑問が浮かぶ。
……隣にいるのだから質問なりなんなりすればいいかと思い、思い切って声をかけてみた。
「あの」
「……なんだ」
顔をこちらに向けもせずに生返事を返す彼の横顔には退屈も緊張も見て取れない。
ただ、人を寄せ付け難い空気のようなものは纏っていた。
それが、これほどにクラスメートを遠ざけているのかもしれない。
でも、私は平気だった。その時はどうして平気だったのか理由は分からなかったが、不思議と緊張はあっても忌避はなかった。
「わたし、千代田来瞳です」
「ふーん。それで?」
こちらから名乗ったのだから自分も名乗ってくれればいいのに、これでは名前も分からない。
少しむっとしたが、それよりも言いたいことがあった。
「……負け犬じゃありません」
前に出会った時は最悪な事に、初対面から負け犬呼ばわりされた。
私だって反抗心がないわけじゃない。今は多勢に無勢だからあんな風に惨めな思いをしたけど、向こうも人数的に不利になれば何も出来ない筈だ。彼女たちも私も同じ状況に立たされたら当然ああなる。
初対面の印象だけ見て「負け犬」呼ばわりしてくるのは不本意だった。
でも、その勇気を振り絞った発言は即座に切り捨てられた。
「……違うんなら言葉でなく行動で示すんだな」
「………ッ!」
私の気持ちも立場も知らないくせに勝手なことを、と頭に血が上った。
でも、そんな私を真正面から観察する彼に、私は何も言い返せなかった。何かを言えば、また目立って皆にからかわれる。それに、この人を完全に敵にしてしまうかもしれない――そんな私の臆病勘定を見透かしたように、ふん、と鼻を鳴らした彼はそのまま押し黙ってしまった。
さっきまでの気勢を削がれてしまい戸惑う私の腕が、誰かに捕まれた。それなりに強い力だが、こちらを痛めつけようという害
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