第1話 ビギニング
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本当に死んでしまったんだと実感したのは数日後だった。
それを実感するたびにすすり泣き、それでもがんばって受け入れた。
でも、お父さんは――きっと未だにそれを割り切れていないんだと思う。
母さんが死んでから数か月ほどは気丈に振る舞っていたけれど、生活は見る見るうちにボロボロになっていった。お酒の量が増えて、とうとう仕事にもいかなくなって、今では家の貯金を切り崩して競馬やパチスロを往ったり来たり。
いずれ、貯金は尽きるだろう。ひょっとしたら在学中のうちに無くなってしまうかもしれない。
そうしたら、どうしよう。
「くーるみっ!」
「……ぁ、な、何?」
「何じゃなくて、ほらプリント!ぼうっとしてたら先生に怒られちゃうよ?」
「ごめん……」
考え事に夢中になってしまっていたせいで、目の前に突き出された配り物のプリントに一瞬気がつかなかった。ごめん、と謝ってプリントを受け取り、後ろの席へ回す。
プリントを渡してきた友達――宮下香織は、ふう、とため息をついてこちらを見る。
「まぁ優等生のくるみはちょっと怒られたくらいじゃ困らないかもしれないけどさー」
その一言が、私にとっては一番欲しくなかった。
それは、呼び水だ。周囲の冷やかしを集める呼び水。
「流石クラスの成績ナンバーワン!余裕あるねー」
「天然なんだから……それとも何か悩み事かしら?」
「先生の言う事なんて聞かなくたって困らないって顔だよ、あれ」
周囲からそんな声が集まる。言葉の上では普通に聞こえるが、発言している人間を見れば嫌味だと言う事は分かる。声を上げている人間の半分はお調子者で、もう半分は私を虐めている子たちだから。
そんな周囲の様子に気付いた香織は、ごめん、と私にしか見えないくらい小さく謝った。
これでまた一つ、目立ってしまった。
きっと後でこれを口実に何か嫌がらせをされることになる。
周囲には何も言わずに、その言い知れない不安感に耐えるように無言で両掌を握りしめた。
友達だけど、味方じゃない。
香織は私ともいじめっ子側とも友達だから、私に全面的に味方はしない。そうすれば自分もクラスの爪弾き者にされることを分かっているからだ。だからバランスを取っていじめっ子側に貢献しながら、情けをかけても大丈夫な時だけ私の友達として行動する。
他人の意見はなんでも「そうだね」と首を縦に振りながら、誰にも嫌われないように生きている。
香織はそんな子だった。
香織が友達なのは、席替えなんかで近くの席になりやすいから。そして、味方ではないけど完全にいじめっ子側ではない分まだマシだから。
香織は分かっていて、私の友達をやっているのだろうか。「他よりマシ」なんて傲慢な理由で交友関係
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