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スパイの最期
8部分:第八章
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第八章

 二人がかりで銃の弾丸の続く限り撃った。するとそれで彼女は血の海にまみれたのだった。
「これで終わったか」
「いや、安心するな」
 一人が仲間達に告げた。
「止めをさす」
「それか」
「それにだ」
 その一人の声が酷薄な色を帯びていた。
「俺もこの女は仕留めたい」
「そうか。そうだったな」
「御前の娘はあの原子力発電所にいたんだったな」
「ああ。こいつのせいで死んだ」
 憎しみに満ちた声だった。その声を己の血の海の中で喘いでいるマトリョーシカにかけたのである。
「こいつのせいでな」
「じゃあやれ」
「止めをさえ」
「ああ。死ね」
 その憎悪に満ちた声で発砲する。彼もまたサイレンサーをその先に付けた銃だった。
 マトリョーシカは胸や腹を続け様に撃たれ撃たれる度にその身体を跳ねさせる。それはさながら彼女の断末魔のようであった。
「よし、これでいい」
「もう助かることはないな」
「心臓を撃った」
 今売った者の言葉だった。
「助かる筈がない」
「では。これで立ち去るとしよう」
「証拠はないな」
「うむ、何もな」
 そのことを確かめ合ってから姿を消す彼等だった。後には血の海の中に横たわるマトリョーシカだけが残された。
 彼女はコート姿のまま玄関に横たわっていた。だがまだ事切れてはおらず意識は残っていた。そして身体も動かすことができた。
「うう・・・・・・」
 血の海の中に横たわりながらもであった。何とか這って進んでいく。廊下に鮮血の溜まりを作りながらそのうえである部屋に向かった。そこは。
 リビングだった。ソファーもあればテレビもある。そこに冷蔵庫やキッチンもある他は至って質素な部屋だった。味気ないと言ってもいい。
 彼女は最後の力を振り絞ってその部屋に入った。目の光はまだ残っていた。
 もう立ち上がることはできないがそれでも進みそのうえで。テレビを置いている棚のところにある幾つかの写真立てを見るのだった。
「パパ、ママ・・・・・・」
 まずは二人並んで笑っている初老の二人の男女の写真を見た。二人は自分の後ろで彼等のそれぞれの肩を抱いて笑っているマトリョーシカに囲まれていた。
「皆・・・・・・」
 続いて軍服姿の一団が写っている写真に目をやった。そこには若いマトリョーシカもいた。
 写真はもう一枚あった。二人の女が写っていた。一人はマトリョーシカ自身がいる。笑顔で笑っている。そしてもう一人は。彼女はそのもう一人を見て呟いた。
「クリスタ・・・・・・」
 これが最後の言葉だった。マトリョーシカはがくりと頭を落としそのまま動かなくなった。写真に写る彼女はどれも微笑んでいた。それはとても明るく屈託のないものだった。
 マトリョーシカが死んだことはすぐに軍内に知れ渡った。だが誰
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