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スパイの最期
7部分:第七章
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第七章

「あれだけの人間を殺してそのうえ人を騙して成功させた作戦で」
 マトリョーシカがどうして作戦を成功させたのか彼も知っていた。クリスタに身分を隠して近付き友人のふりをしたうえで爆弾を仕掛けたことも。そしてクリスタもその婚約者もその原子力発電所の爆発に巻き込まれ骨一つ残らなかったことも。全て知っているのである。
 だからこそ今呟くのだった。苦い顔で。
「まさに機械だな。人ではないな」
 彼にしろこう思う程だった。マトリョーシカはそれからも祖国の為に様々な工作を成功させてきた。それにより各国、とりわけあの原子力発電所を破壊された国に憎まれるようになっていた。
「あの女によって」
「多くの同胞が殺された」
「様々な計画が邪魔された」
「特に原子力発電所がだ」
 まずはこれなのだった。やはり。
「見ておれ」
「今に見ておれ」
 憎悪に満ちた声が底に響いていた。
「必ずや目にもの見せてくれる」
「居場所を突き止めてからな」
 こうして彼女の暗殺計画が進められたのだった。水面下ではあったが確かに進んでいた。そしてそれは慎重を極め誰にも気付かれなかった。マトリョーシカにも。
 マトリョーシカはその日一人で酒場にいた。バーで一人酒を飲んでいたのだ。
 美貌を持つ彼女に酔った若い男が声をかけた。しかしであった。
「悪いけれど間に合っているわ」
 一言だった。それだけだった。
「残念だったわね」
「何だよ、おい」
 何も知らない若い男はその返事に顔を顰めさせた。
「冷たい女だな」
「どうとでも言うといいわ」
 そう言われても動じない様子であった。
「どうとでもね」
 こう言ってから店を後にするのだった。そうして一人で夜道を歩き帰路に着いていた。その後ろからだった。
「いたな」
「ああ」
「間違いない」
 幾つかの影が囁き合う。
「あの女だ」
「遂に見つけたか」
「いいな」
 言葉にはかなり慎重なものがあった。
「気付かれるなよ」
「わかっている」
「気付かれれば終わりだ」
 それぞれ言い合うのだった。
「だからだ。用心してな」
「ここでは襲わずには」
「部屋だ」
 一人が言った。
「部屋で仕掛ける」
「部屋か」
「あの女が部屋に入ったその時にやる」
 その一人が言うのだった。
「その時にこそだ」
「わかった」
「ではそれでやろう」
 他の者達も剣呑な声で彼のその提案に頷いた。
「部屋を開けたその瞬間にだな」
「一気に襲い掛かって」
「そして消す」
 剣呑な言葉が続く。
「それでいいな」
「よし」
 皆頷き合いそのうえで彼女を慎重に尾行し続ける。それは何とか、おそらく運も多分にあったのだろう。マトリョーシカに気付かれなかった。彼女は一人家に戻っていく。
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