第十四章 水都市の聖女
第六話 俺の名は―――
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笑みを作るとこくりと頷いて見せた。
「君たちが逃げ出せる時間ぐらいは稼いでみせよう」
「……一つ、提案がある」
ブリミルの説得が終わり。少しずつ、しかし確実に追い詰められていくサーシャの下へと向かおうとする士郎の背に、ブリミルの小さな囁くような声が当たる。
「提案?」
無視しても構わない筈の言葉に、だが何故か足を止めた士郎は背に顔を向ける。
「―――あなたに“力”を授ける」
「“力”?」
士郎に近づくと、ブリミルはチラリと二匹の土蛇を使って李書文を絞め殺そうとするサーシャの姿を確認する。
「サーシャの左手に刻まれた“ルーン”と同じ、だけど全く違う“ルーン”―――“リーヴスラシル”」
「―――“リーヴスラシル”?」
何処かで聞き覚えがある響きと、士郎が自身の記憶を探ろうとするも構わずブリミルの話は続いていたためその思考は途絶えてしまう。
「それをあなたに刻む」
「……それを刻めばどうなる?」
内心戸惑っている士郎に気付かず話しを続けるブリミル。ブリミルの顔色は悪い。何処か飄然とした雰囲気を漂わせていたのが鳴りを潜め、顔色は青白く緊張に粘ついた汗を額に浮かべている。尋常でないその様子に、思わず士郎は声を掛けようとした。しかし、それを押し止めようとするかのように、李書文の一撃を受け腹の中を暴れまわる熱い奔流が、突如湧き上がった気味の悪い寒気に一瞬だけピタリと止まる。
一秒にも満たない空白の時の後―――ブリミルは口を開く。
「……強大な力を得ることが出来る、けど」
「何かあるのか?」
問いに、士郎の視線から逃げるように顔を下に向け言い淀む。
「そ、その―――」
「時間がない。何だ」
顔を俯かせ何かに耐えるように必死に歯を食いしばっていたブリミルが士郎に告げたのは―――常人にとっては余りにも受け入れがたいものであった。
「っ―――魂が、代償なんだ」
“力”の代わりに“命”
まるで悪魔の取引のようだと、シロウは思わず浮かびかけた苦笑いを咬み殺す。
悪魔は自分だ。
そう―――例えジブンたちの世界をマモルためとはいえ、一つのセカイを滅ぼすために自分たちはココニイル。
だが、ならば何故―――自分は奴と戦っている……?
「……」
「命を削る代わりに使い手に莫大な力を与える“ルーン”。それが“リーヴスラシル”」
悲壮な顔でブリミルは、罪を懺悔するかのようにシロウに“リーヴスラシル”のルーンについて説明する。
魂を代償に力を得るというのは有り触れた話であり、シロウ自身、似たような事を何度となくしてきた。だから、ブリミルの話に対する嫌悪感はない。
そんなシロウの心の内を伺い知ることのできないブリミルは更
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