第十四章 水都市の聖女
第六話 俺の名は―――
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。
生まれた千載一遇の機会―――だが、
「ゴ、が―――っはぁ……ふ、はぁ―――」
攻撃を仕掛けるどころか、崩れ落ちそうな足に力を込め立っているだけで精一杯であった。気を抜けば気だけでなく命まで失いかねない苦しみと痛みが、体中を遅効性の毒のよう廻る。血煙混じりの喘鳴を鳴らしながらも、全く力を失っていない鋭い目で立ち上がる李書文を睨み付けた。
「何故―――殺した」
「……何故、とは?」
士郎の怒りを押し殺した声に、冷淡な返事が返される。
「殺す必要はなかった筈だっ!!」
「儂は何の理もない殺しはせん」
「っ―――理があるとでも言うつもりかっ! 何処にだッ!? 貴様の―――貴様たちが何故ここにいるかは大体は検討が着いているっ。だが、だからと言って殺す必要があったのかッ!!?」
震えていた足を蹴り飛ばす勢いで一歩足を踏み出し、李書文に指を突きつける。しかし、責められる相手はどこ吹く風か気にした様子は全く見えない。それどころか軽く肩を竦め詰まらなそうに鼻を鳴らす始末。
「はっ、何を言っておる? そんな事はお主も知っておる筈だろうに。この世界におる者は遅かれ早かれ皆死ぬ運命にある。ならば、ここで死ぬのも後で死ぬのも変わらん。それにこ奴らが死ねばそれだけ早く目的が達せられるだろうに」
「どういう、事だ?」
李書文の顔に刻まれた皺の一部がピクリと動く。猛禽類の如く鋭い視線が士郎を突き刺す。
「お主も“守護者”として喚ばれた身。ならば知っておる筈。儂らが受けた命はこの世界の終焉。それならば善も悪もなく受けた命に従い遍く全てを滅ぼすのが喚ばれた者の責務。故に迅速にその命を全うするだけ。力持つ者の命が大地に還ればそれだけこの世界の崩壊が早まるならば、それを成すのが最も合理的だろうが」
「―――っ」
ただ効率がいい。
その余りにも冷たく硬い理由に士郎は絶句する。
「―――喚ばれた者の中には竜などの異形の種を主に殺して回っておる輩もおるようだがの。儂も興味がなくはないが、あいにくとそういった輩とは会えなくての。まぁ、縁があればその内嫌でも会うだろうて、ならば探し回る暇があるのならば、目に付く力を持つ輩を殺したほうが合理よ」
「貴様は―――何を、何を言って―――」
何を―――?
そんなコトハ―――
―――ワカッテイル
ワカリキッテイル
イワレズトモ―――ワカッテイル
この男は何もおかしな事は言ってはいない。
自分たちの世界を守るため、それを脅かす危機を排除するために必要な事をしているだけ。
何も―――おかしな事はいってはいない。
―――オレモ―――ソレニナットクシテイタハズダ。
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