第十四章 水都市の聖女
第六話 俺の名は―――
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紅の悪魔―――李書文が現れたと理解した時には、既に身体はテントの外にあった。ヴァリヤーグと恐れられている怪物が現れたのだ、テントの外は混乱に陥っているのではとの士郎の思いは、しかし目の前に広がる光景に、もはやそういった事態ではないと理解させられた。
「―――――っ―――ぁ……」
「……ん? お主は―――……まさか生きておるとは……どうやら貴様は随分と死神に嫌われておるようだの」
背後に現れた気配に気付いた李書文が、右手に握った長大な槍を引きながら振り返る。その際、槍の先端に突き刺さっていたモノが外れ、支えを失ったソレは力なく地面に倒れ込み、ソレから流れ出したモノの中へと飛び込んでいった。
ドチャリ、と重い湿った音と共に赤黒い泥が辺りへと飛び散るが、ソレを気にする者はこの場にはいない。
正確に言えば―――いなくなっていた。
「呵々―――いや、丁度良い時に来たものよ。今しがた最後の一人を喰らい終えたばかりでの。遠間では厄介な奴らじゃが、近場で殺り合えば脆いものよ……余り楽しめないのは残念じゃが、まあ、逃げられるのはちと面倒なもの故な」
一歩、一歩と歩を進ませて近付いてくる。
槍を肩に当てながらゆっくりと歩み寄ってくる姿からは、敵意も殺意も全く感じ取れない。
まるで散歩中旧友に偶然出会って話しかけるかのように、自然と歩み寄る姿にも見える。
だからこそ―――異常が際立つ。
一歩―――一歩近付いてくる。
歩くたびに、泥濘んだ大地に己の足跡を刻みながら。
士郎と李書文との距離は三十メートル強。
互いの実力ならば、一秒も要らず接敵可能な距離。
李書文その距離を少しずつ削っていくが、士郎は全く動けないでいた。
何故?
李書文の強さを知っているが故に、足が竦んでいるのか?
それとも隙を見せるのを恐れて動けないでいるのか?
―――否。
怯えも恐れもない。
ただ―――目の前に広がる惨状を前に、腹の底から吹き上がる感情に意識が支配されていたからだ。
赤―――ではない。
黒―――ではない。
赤黒い。
それが最も近い。
硬い濃い茶色の土に、大量の赤い液体をぶちまけ掻き混ぜ出来上がったその汚泥は、酷く不吉な色を見せていた。
闇の黒と―――血の赤。
どちらも死を想像させるものであり―――事実その通りであった。
ソコには―――死が広がっていた。
李書文を中心とした少なくとも半径三十メートル。
そこは沼であった。
土と―――血で出来た沼。
十や二十ではきかない死体から流れ落ちた血は、辺り一帯に染み込み即席の沼を
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