第十四章 水都市の聖女
第六話 俺の名は―――
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……全く、厄介な“約束”をしてしまったものだ―――
まさか―――俺は―――
そして“契約”は結ばれ―――世界に光が満ちた―――
サーシャが李書文と戦い始めて未だ十分も経っていないにも関わらず、サーシャは防戦一方だった。李書文の攻めを、サーシャは必死に大地から隆起させ盾とした岩壁で防ぎ、間に合わないものは形振り構わない姿で地面の上を転がり血と土が混ざり合った姿で凌いでいたのだが、それでも限界であった。
油断はなかった。
失敗もなかった。
単純に実力の差であった。
そして追い詰められたサーシャは、李書文を倒すため自身の限界を越えた力を振るった。
合計八匹―――李書文を中心に、八頭の大蛇が取り囲むように円を描きながら空へと昇る。樹齢千年を超える大木のような土と岩で出来た大蛇が空を昇る姿は、まるで伝説の八岐大蛇が現れたかのようであった。李書文を完全に取り囲んだ八匹の大蛇は、上空数十メートルから一気に己の腹の中にいる李書文に襲いかかる。四方を完全に隙間なく囲まれ、上空からはビルのような八匹の蛇が落ちてくる。
誰もが必勝を確信する光景。
不可避の死。
―――だが、それを打ち破るからこその英雄である。
李書文を囲む八匹の大蛇が破裂した。空気を入れすぎ破裂した風船のように粉々に砕け周囲に石や砂が飛び散っていく。爆風のような衝撃が周囲に広がり、サーシャが吹き飛ばされ地面に倒れ込む。不可視の衝撃が強かに全身を打ち付け、意識は失わなかったが身体は指一本たりとも動かす事は出来ないでいた。精霊の力など以ての外。気を抜けば意識が無くなる状態であった。
「予想外に楽しめた―――礼をいう」
「―――っ、ぅ」
唯一動かせる目で、眼光で射殺せればと言わんばかりの殺意に満ちた視線を向けられた李書文は、最後まで諦めないサーシャの姿に敬意を表すよう小さく頭を下げ、せめてもの慈悲と苦痛を与えないよう槍を心の臓目掛け突き出し―――光が視界を染め上げ。
それでも止まる事なく突き進む槍だったが、甲高い金属音と共にその進行を妨げられることになった。
「―――ば、ぁか」
擦れ、今にも消え入りそうな弱々しい罵倒が背にかけられる。ここでこれかと知らず口元に苦笑が浮かんでいた。切り刻まれるかのような痛みを発していた胸に視線を落とす。
痛みは既にない。
代わりに今は燃えるように熱い。
チラリと一瞬だけ後ろに視線を向ける。倒れピクリとも身体は動いてはいないが、気の強そうな眼差しは健在だ。文句を言うように睨みつけてくる。し
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