王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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の掟に背き、またも戦場に立つ事が許されましょうか」
ニブレットは黒々と光る馬頭の像を見つめる内、額が疼き、ひどい耳鳴りと眩暈を感じ始めた。神像が緋の光を纏っているように見え、その内頭の中の後ろのほうに、直接ヘブの声を感じた。
「本来であれば許される事ではない」
黒曜石の祭壇が一瞬、何者かの眼を映しだした。
「しかしながら、この度の蘇生はお前の予期するところではなく、悪意や謀略によって余に背いたのではない。またお前はよく余に仕えておる。余がお前の求めに応じて一つの火種を授ければ、お前は百の命を余の国に送りこみ、また余が凍裂の息吹を授ければ、お前は千の命を余の足許に送りこんだ。そなたの才覚と働きは、余の崇拝者の中でもぬきんでておる」
「有難きお言葉、恐悦至極に存じます」
「以後も余によく仕えるならば、二度目の死が訪れるまで戦場に立つ事を、崇拝者ニブレットに許す。台座の剣を取れ。以後はその剣によって命を刈り取るがよいぞ」
ニブレットは畏れ多くも神ヘブの台座に歩み寄り、その台座に挿された漆黒の剣を恭しく抜き取った。
その黒々とした刀身に、ニブレットは灼熱の業火と、炭になり果ててなお踊り狂う、永遠に身を焼かれる人々の姿を幻視した。刀身を返すや、今度は、凍てつく氷原の果て無き行軍を見た。痩せこけた人々が一糸纏わぬ姿で重い荷を曳かされ、その体は風雪によって切り裂かれ、血が流れていた。更に彼らは手、足、首を鎖によって拘束され、凍りついた鎖が更に、彼らの凍傷を悪化させるのだ。
二つの幻視によって、ニブレットはこの剣で命を奪われた者の魂の行く先を察した。
「有難く頂戴いたします。この剣を抜く事を躊躇いはしますまい……私は慈悲深い性質ではございませぬゆえ」
ヘブの乾いた笑い声が、頭内に響き、消えた。
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