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Lirica(リリカ)
王の荒野の王国――木相におけるセルセト―― 
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だ。生きてはおるまい。ニブレットは朝日が昇るのを目にした。戦火の神ヘブの力が彼女の体に流れこみ、彼女はそれを魔術に変換し解き放った。
 ニブレットは二体の巨人機兵を灰燼に変えた。記憶が途切れる寸前、己の体を切り裂く魔力を感じた。一瞬の出来事であり、ニブレットにできた事といえば、ただ最期の魔力の全てで隣のオリアナを庇う事だけであった。

 ※

 壊れた建物を出ると、オリアナが雪の中を、息を切らして走ってきた。短く切った琥珀色の髪にも雪が吹きつけ、凍っている。目に隈が浮き、薄い鎧は血まみれのままだ。
「ニブレット様! 何という痛ましいお姿……」
 オリアナは肩で息をしながらニブレットの前に(かしず)いた。
「私がおそばにおりながら……申し訳ございません!」
 ニブレットは薄く笑った。この年下の娘は、ニブレットの気に入りの侍従だった。情熱的な瞳が良い。ニブレットはしゃがみこみ、オリアナの顎に指をかけた。そうして上を向かせると、荒れた紫色の唇に、己の唇を重ねた。
「屍の口づけは不味いか?」
 オリアナの青白い頬にさっと朱が差し、瞳に情熱の輝きが戻った。
「とんでもございません。嬉しゅうございます」
 足音を立てて、後ろにサルディーヤが立った。ニブレットは苦々しい思いで立ち上がり、話題を変えた。
「オリアナ。ブネは何をしている」
「変わらず白の間におこもりになられたままでございます、ニブレット様。侍従長が説得を試みておりますが、入室さえままならぬと」
「ふん……無能が!」
「ニブレット、王宮で陛下がお呼びだ」
 サルディーヤが冷たい声で言った。
「聖王が? 何用だ」
「言って直接聞くがよい。その内容を伝えるのは、私には過ぎた仕事だ」
「どうせ大した用事ではなかろう。私には父に会うのに先んじてやらねばならぬ事がある」
「何だ」
「貴様の知った事か。オリアナ、ついて参れ」
 一方後ろを同行するオリアナに、ニブレットは微笑みかけた。
「戦死した私がまたも戦場に立つ事が許されるか、戦火の神ヘブにお伺いを立てる必要がある」
 ニブレットは王宮の、身分の低い客人用の門を、黙っているよう門番に言いつけて密かに通り抜けた。彼女は敷地内に建てさせたヘブを祀る神殿の入り口にオリアナを待たせて、一人中に入った。
 神殿内は雪雲の光のほか光源はなく、司祭の姿も消えていた。戦火の神ヘブは、灼熱と極寒の小さな地獄の星を従えた馬頭の神である。黒曜石の祭壇の奥には、魔力によって回転する二つの星に守られた、馬頭の神像が安置されていた。ニブレットは身廊に片膝をついた。
「緋の界にまします我が神ヘブよ、我ニブレットは先の戦により落命し果てたが、腐術により予期せぬ蘇生を果たしました。本来であらば生前の誓いに則り御国にてお仕えすべきこの身、人の世の戦
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