王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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て敵にとって戦場として布陣できる状況ではな。我らには今しかない。それを各々、胸に刻みつけろ」
相の上位単位は階層、さらにその上位単位が界である。渉相術師レンダイルは瑠璃の界よりその魔力を得ていたはずだ。
「何者かが、レンダイルが最期に為した術を引き継いでいる、という事は考えられませんか」
静かにサルディーヤが言った。
「陛下はこの戦が劣勢になるや、レンダイルと不仲になり、かの術師が何を企んでいるかと不穏に感じておられたと聞き及びます」
「いかにも、陛下とレンダイルの不仲は公然の秘密というものだ」
「それゆえ陛下は、ナエーズ平定の英雄イユンクスをレンダイルのもとに探りに行かせたと」
「そのイユンクスだが、先ほど王の荒野より北の隘路を通ってこの野営地に来た。死体でな」
またも、魔術師達の緊張と沈黙。
「それを運んだ兵によれば……レンダイルの命令によってだ。イユンクスの様を見ろとな。何が起きたか、我らに知れという事だ」
言うなり、カチェンはテント内を区切る厚い幕を払った。並べられた酒樽の上に、麻の遺体袋が安置されていた。カチェンは剣を抜き、遺体袋に突き立てた。カチェンは政略によって、妹を英雄イユンクスに嫁がせた過去がある。その妹は酒席にて、戯れに、イユンクスに斬り殺された。そんな事を思い出しながら、何が起きるかを、ニブレットは冷ややかに見る。
カチェンの剣が遺体袋を直線に裂いた。その裂け目から湿り気のある白い粉が、音を立てて流れ出た。遺体袋は間もなく平らになったが、人の形をした物は残らなかった。カチェンはその粉を、人差し指に付けた。
「舐めてみるか」
色を失う将校たちを見るや、彼は嬉しそうに人差し指を舐め、狂気の滲む目で笑った。
「塩だ」
沈黙を破るのは、隣に立つ男、サルディーヤだ。
「人を塩に変える力を、私は一つしか知りません」
ニブレットが後を引き継ぐ。
「歌劇、『我らあてどなく死者の国を』。死の神ネメスの託宣を受けた発相の巫女によって書かれ、第一幕の上演のみで水相を滅ぼした」
「然り。全ての相を震撼せしめる……恐怖の力だ」
「すなわち、魅了の力」
サルディーヤの言葉に、カチェンは重々しく頷く。
「近習の者の噂に過ぎぬが、レンダイルは件の歌劇の追究に執心であったと聞く。確かに残された第二幕の台本を手に入れれば、その者は木相のみならず、全ての相を支配しうる」
「レンダイルはそれを手に入れたのではないか?」
将校の一人が言った。カチェンは応じる。
「我が連隊の仕事は、王の荒野で起きた出来事の真相の追求ではない。話は以上だ」
その後連隊長カチェンは、壊れた木兵達から飛び出した無数の蜂に全身を覆われた。正気を失い、手足をばたつかせて走り回り、地に伏せて尚もがいていた姿が、最後に見た彼の姿
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