王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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人機兵により分断された我ら魔術連隊が取り残されているというわけだ」
「して、連隊長、我が軍の方策は」
「話を急ぐな」
ニブレットには、カチェンがどこか困惑しているように見えた。
「今夕、王の荒野にて渉相術師レンダイルが死亡した」
何人かが息をのみ、また訝しみ眉をひそめた。ニブレットもまたそうした。カチェンは、レンダイルが戦死したとは言わなかった。レンダイルは病を患っていたわけでもなく、老衰で死ぬ気配もなかった。
渉相術師レンダイルは魔術の才が非凡であるばかりか、調略の達人であり、聖王ウオルカンにとって不可欠な存在であった。それはセルセト国にとって不可欠である事と同義であり、いよいよ絶望が将校たちの表情に、笑顔という形で広まり始めた。その終末期的な笑顔は、続くカチェンの言葉で皆の顔から消え去った。
「その死の直後、荒野に展開していた全ての軍が、敵味方の別なく消滅した。荒野にある種の異変がもたらされたとの事だ」
「その異変とは」
「知らぬ」
カチェンはいらいらして言い放った。
「だがその事で俺を責めるな。孤立した我々が情報を得る手段は限られている――唯一この野営地に生還した木巧魚の情報によると、王の荒野の彼方では、石相との境界が曖昧になっているそうだ。レンダイルの死の理由は定かではないが、何らかの術の影響であると見て間違いないだろう。今後、石相からどのような脅威がもたらされるかは予測しがたいが、我々はこれ以上手を拱いているわけにいかん」
指令を下す際の癖で、カチェンは別に歪んでもいない剣帯に触れて直す仕草をし、絶望的な声で言った。
「王の荒野の異変により巨人機兵隊は相当の打撃を受け動揺している。南方のネメスの木兵隊より兵力の補充が行われ、その作業により我らに対する注意が薄れている。薄明、我らは東の包囲を突っ切り、セルセトの都の守備隊と合流する」
「恐れながら、それは――尚早では――」
小心者のベーゼが口ごもりつつ意見した。彼は三年前、敵地タイタス国にてありもしない火焔兵団の増援の噂に怖気づき、それによってイグニス包囲戦に大敗した前科がある。カチェンに睨まれ、彼は太った体をぶるぶると震わせた。
「案ずるな。我らの増援が背後の黒の山脈を回りこみ、合流地点に迫りつつある」
「その増援は如何ほど」
「七百」
いよいよ将校たちは乾いた笑い声をあげ始めた。ニブレットも薄笑いを浮かべ言った。
「憐れな事だ。その兵達は何をしに来るのだ? 死にに来るのか?」
「口を慎め」
上官は憎まれ口を叩く第二王女に、苦々しい口調で命じた。その後、沈黙した。いささか長く感じられる沈黙であった。
「……木巧魚によれば、王の荒野では何者かが『瑠璃の界』より魔力を引っ張り、垂れ流しているらしい。王の荒野は通れる状況ではない。まし
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