かえるの墓守
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なら、まだ可愛いもんだろう。
先に友達も祭りに行くというマリちゃんを送り出した小生は、残りの墓を全て掃除し終えた。
既に拭いた手ぬぐいはボロボロになったため、人魂で燃やして役目を終えさせた。桶の水も空になり、妖術のための妖力もすっからかん。肩で息をしていた小生は、呼吸をゆっくり整えて立ち上がる。
「さて………それじゃ最後の仕上げだ」
小生は鬼に貰った酒の樽を口から取り出して、その封を開けた。
中から濃密な酒の香りが溢れ出る。飲めば一発で気を失い、燃やせば火柱が上がるとんでもない純度の酒だが、この燃えるような酒こそが無縁仏の怨念を鎮めてくれる。
「さあて、月の傾きからしてそろそろ日が変わるな……」
日が変われば、霊たちが墓に戻ってくる。
あの酒樽は家族や子孫のもてなしに満足できなかった霊魂のための酒だ。
『あるこおる』は、生かすのではなく殺すのが本質。故に死者との相性がいい。
そして、鬼が丹精込めて作ったあの酒は神も飲むものだ。
一口すすれば未練も怨念も吹き飛んで、一発で成仏できるだろう。
「たらふく飲むんだぜ。そして、飲んだら迷わず『かえる』んだぞぅ……」
墓の人魂が消えていき、今度は本物の人魂が溢れていく。
久しぶりの現世に楽しさがこみ上げている彼等の真ん中に妖怪がいちゃあ締まらない。
盆の始まりだ。死者の時間が始まる。妖怪は妖怪の領分に退散するとしよう。
「おうい、かえるの兄ちゃん!!」
「あん?なんですかい?」
不意に、厳つい面の幽霊に呼び止められて振り返る。
これだ、コッチが人の姿をしてないと、幽霊はいちゃもんをつけてくる。
小生は無縁仏の掃除してんだぞ、と言ってやりたくなるが、そんなのは男らしくなくて何も言わなかった。
幽霊は暫く俺の面を眺めると――やがて人のよさそうなニカッとした笑顔を見せた。
「墓掃除、ご苦労さん」
「…………あいよ」
毒気を抜かれた小生は、プラプラと手を振ってそれに応えながら、むずがゆくなる背中を掻いてその場を後にした。
小生は、「輪廻」にかえることが出来なかったかったが故に輪を外れたはぐれ魂が妖怪となった者。
故に、輪廻に戻れぬ者を憐れみ、勝手に導く手伝いをしている。
そうしていつか、長い長い時間をかけて輪廻に魂を返し続け――いずれは、小生も共に「かえる」。
それが何年後になるかまでは分からないが――それまでは、妖怪として役割を果たし続けよう。
もしも、あんたたちのご先祖の墓の「花立て」に「カエル」が住んでるのを見かけたら……
そいつはひょっとして、「かえる」ことの出来た墓守かもしれねえな。
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