かえるの墓守
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日が沈んでんのに墓石と『すてんれす』が熱を持ってやがる!」
かえるの身体に熱はキツい。
梅雨の時期は天国だが、それが過ぎるとしんどいったらありゃしない。
だが、仕事は仕事。ぶつくさ文句を言う訳にもいかねぇ。自分の存在理由を否定する訳にもいかねぇからだ。体を墓の外に出した小生は、口の中から仕事道具の桶と柄杓、そして箒と手ぬぐいを取り出す。小生の腹の中はちょっとした箪笥になってるんで、必要なものは大体腹の中に入ってる。
「じゃ、始めますかね………『無縁仏』の墓守りを」
すっかり闇に包まれた墓地の真ん中で、掌にふっと息を吹きかける。
すると、掌から火の玉が沢山零れ出て、お墓の燃え尽きていない蝋燭に次々と火が灯っていく。ちょっとした『妖術』ってな奴だ。
視界が良くなったのを確認した小生は、妖術で桶の中を真水で満たした。
ぼちゃぼちゃと透き通った水が注がれ、波紋が光を反射する。
無縁仏ってのは、供養してくれる人もいなくなってほったらかしになってる魂、もしくはその魂がいる墓そのものだ。これがなかなか厄介で、せっかく盆になって帰って来たのに墓がボロボロで余計な未練が増えちまう霊魂が後を絶たねぇ。
そういう魂の未練を減らすために墓掃除をしてやる墓守――それが小生、『かえるの墓守』だ。
無縁仏はすぐに判る。未練がゆらゆら、陽炎のように墓石から漏れ出しているからだ。
地蔵や菩薩もこいつには手を焼くらしく、特にお盆の時期は小生の存在を有り難がってくれる。
元々地獄の獄卒とも訳あって付き合いがあるし、妖怪の中では結構顔が広い。
尤もそれは「あの世」だけの話で、「この世」じゃ名前すら知られてねぇが。
「はいはいちょっと失礼するよォ」
墓に近づき、桶の水を柄杓で掬って優しくかける。
流れ落ちる水が、墓石のゆらゆらを微かに和らげた。その間に小生は手ぬぐいで墓石のコケや埃を丁寧に掃う。こんなちょっとしたくすみが霊魂を悲しませる。夢中になってという訳じゃねえが、相手を慮りながらの作業は時間をトばしてくれる。もう何百年も続けてるだけあって、いつのまにか墓石はすっかり綺麗になっていた。
墓石の周りも箒で掃いておく。どうせ放っておけばまた汚れが溜まるが、それでも掃ってやらねば霊魂が可哀想だろう。植木の雑草もそうだが、一度で終わるのではなく続けていくことが一番の供養ってなもんだ。
これを延々と続け、百を越える無縁仏を磨いていく。
これは盆以外もやるのだが、かえってくる霊魂の事を考えると盆は特に気合が入る。
途中疲れて小休止していると、フラッと見覚えのあるお嬢ちゃんが見えた。
可愛らしい赤の着物に身を包み、鞠をついてる亡霊。
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