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【短編集】現実だってファンタジー
かえるの墓守
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 妖怪(あやかし)って奴は。
 大抵、自分でも元々どんな存在だったのかは知らないし、興味がない。
 知ってどうなることでもないし、有名な奴も無名な奴もいる。
 小生は自分の出自を知ってるが、知らない奴がいても別段おかしなことじゃない。

 性質やら外見やら、そういう特徴を十把一絡げにして妖怪って呼ぶわけだ。

 例えば最近噂の『朧車』は大昔から日本にいる大妖怪の類だ。何でも今は怖がらせる筈の人間に惚れて一緒に走ってるとかなんとかってぇ話だ。だが、新入り妖怪のディックってやつは怖がらせるんじゃなくて殺すのが仕事だと思ってやがる。かくいう小生は、別に人間に会わずともいいと思っている。
 妖怪の在り方だって十人十色。それでいいと思ってる奴がいれば、それでいいってな訳だ。

 さて、日本にゃあ「お盆」って行事がある。
 お盆ってのは、今を生きる人間たちのご先祖様が里帰りとばかりに現世に戻ってくるから供養してやろうってな話だ。つまり……「あの世」と「この世」が限りなく近づく日ってことになってる。この日だけ、妖怪って奴は悪さをしないことを条件に「この世」へ来ることが出来る。

 とはいっても、小生にゃ季節や時期など関係ない。
 「この世」に常駐する妖怪も結構いるし、人魂とて「この世」にゃいくらでもいる。
 ただ、この時期になると普段顔を合わせねぇ妖怪が集まって「祭り」を開くから楽しみではある。

 まぁ、その祭りがあるのはお盆の「当日」の話。
 前日の内に、小生にはやらねばならない仕事がある。


 時に、小生は「かえる」の妖怪だ。
 大蝦蟇(おおがま)みてぇな立派なモンじゃねえ、人とかえるを足して2で割ったような奴だ。
 そして、小生の妖怪としての存在意義は、結構変わってると思う。

「よい……しょっとお!!」

 「あの世」と「この世」を繋げる門に体をねじ込み、小生は久しぶりに「この世」お月様の下に顔を出した。妖怪はいろんな場所から二つの世界を行き来するが、小生の場合、入口は決まっている。

 それは――墓地にある墓の、「花立て」っつう花瓶代わりのモンだ。

 古往今来、死と花は切っても切れねぇ関係にある。
 仏壇や墓参りに添えるのは日本じゃ普通『仏花(ぶっか)』て言って、諸行無常の世の中で苦難を越えて咲き誇った花を人間に例えてるんだそうだ。小生は仏門を叩いていないので知らないが、死後も美しくあって欲しいという願望や、花の大成と人生の大往生を重ねてるのかもしれない。

 「あの世」に想いを送り出す象徴の花を差す花立ての穴が、そのまま「あの世」の入り口になっちまう。水もたまってるから、それが小生の使う「入口」として一番都合がいい。

「アチチ!まったく、この季節は花立てがアツくていけねえや。
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