コヨミフェイル
014
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して。まあ、よい。幸運なことに今宵の私は機嫌がいい」
大仰に肩を疎ませながらのこのこ近づいてくる斧乃木ちゃん。
「うん。そこでストップ」
ある程度まで近づいたところで静止させた――背後の自宅から漏れ出た光によってできた影の前まで。
「?」
小首を傾げる斧乃木ちゃんはまるでこれから起こることがわかっていないようだ。
「忍、やっちまえ」
やっちまえを言う前にすでに、忍は僕の影から射出されていた。頭上に突き上げた忍の拳は綺麗に斧乃木ちゃんの顎を捕らえ、斧乃木ちゃんを二階ぐらいの高さまで打ち上げた。
斧乃木ちゃんは、そのまま物理の法則に従って、最高点で半瞬止まってからきりもみしながら墜落した。頭から墜落したままぴくりとも動かなくなった斧乃木ちゃんを尻目に僕は忍とハイタッチしていた。
「ミスタードーナツを追加で二つ買ってやるよ」
「いらん。あやつを殴れてせいせいしたから、十分じゃ」
「あっ、そう。じゃあ」
「うむ、着いたら知らせろ。今日は昼から起きておったからのう、寝不足じゃ。ちと寝る」
「了解」
言葉少なに返事して何事もなかったように自転車を取りに行った。いや、行こうとして阻まれた。
「鬼いちゃん、こんな仕打ちってないよ」
ぼろぼろになって捨てられた人形に怨恨が宿って発現した妖怪のようを思わせる哀れで恐ろしげな姿の斧乃木ちゃんが僕の足首を掴んだのだ。声も地獄の底から聞こえる亡魂が上げる怨嗟のそれに聞こえる。
刺激しないように恐る恐る指を一本ずつ剥がしていった。
「いや、ちょっとイラッてきたんだ。ごめん。結界ありがとな」
「もし、お姉ちゃんに力を貸してあげろと命令されてなかったら、こんな仕打ちに怒りを爆発させて、鬼いちゃんも爆発させていたのだけどね」
「…………」
命じたのは僕だけど、実行したのは忍だからね。
「ほんっとにごめんってば。今度ハーゲンダッツをおごるからよ」
と、身の安全のために言うと、さっきまで満身創痍の態だった斧乃木ちゃんはガバッと起き上がった。心なしか目もキラキラ煌めいているようだった。
「万死に値するような行為だったが、ハーゲンダッツ十個に免じて許す」
「いや、そんなに買えないし。三個な、三個」
高校生の資金力舐めんな!
「…………仕方がない。譲歩してあげよう」
今回の特別報酬を不意にするかもしれないことを覚悟して個数を増やすことを強硬に通すか、ここは安全に提示された数に同意するかで数瞬逡巡した斧乃木ちゃんは後者を選んだようだった。
「後日、受け取りに来る。じゃあ、先に行ってるよ」
斧乃木ちゃんはそう言い残すと、歩いていずこかへ去った。きっと僕と同じ目的地だろう。作戦を盗み聞きしていたのかしれない。まあ、それはさておき、斧乃木ちゃ
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