第四章
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第四章
男子やも我が事ならず朽ちぬとも留め置かまし大和魂
国を思い死ぬに死なれぬ益良雄が友々よびつ死してゆくらん
「俺のことまで」
「そうだ」
「死ぬその時に至るまで。ここまで思っていたんだ」
皆黒木のその心に打たれたのだ。最後の最後まで帝国海軍の軍人であるということへの誇りを失わず天皇陛下と日本に忠誠を死んだのだ。そこには共に死んだ樋口大尉の遺書もあった。彼等は最後の最後まで立派な軍人として死んだのだ。この遺書が何よりの証であった。
「黒木大尉・・・・・・」
「仁科」
「俺達は無駄にしてはいけない」
彼等はまだ泣きながらも仁科に声をかけてきた。その声には何の澱みも迷いもない。ただ純粋さと決意だけがある声であった。
「続こうじゃないか」
「大尉達に」
「ああ」
仁科は彼等の言葉に頷いた。見れば彼も泣いていた。しかし涙をそのままにして応えていた。黒木の遺書には自分へ後事を託すと書いてある。彼はそれを喜んで受ける決意をしていた。だからこそ今はその涙をあえて拭かずに同志達に応えていたのである。
「何があってもな」
「この命、陛下と皇国に捧げる」
「俺もだ」
彼等はあらためて誓い合う。
「黒木大尉と樋口大尉に続くぞ」
「靖国で会おう」
靖国という名が出た。言うまでもなく靖国神社のことである。これまでの日本を守る戦いで散華した英霊達を祭る社だ。彼等は死すればそこで会おうと誓い合い戦場で果敢に戦ったのだ。それがこの時代であり過去の日本の戦いもそうであったのだ。
「そうだ、靖国には大尉殿達もおられる。だからこそ」
「回天を何としても完成させ」
「英霊となろうぞ」
死ぬことを誓い合う。傍から見れば異様かも知れない。しかし彼等は正常であった。その心のまま回天の開発を進める。そして遂にその回天が完成し実戦部隊として配属されていった。死ぬ為の兵器が。今こうして完成され配備されたのである。
昭和十九年十一月。戦局はいよいよ逼迫したものになり多くの戦士達が散華していっていた。レイテ沖における海戦では神風特攻隊が出撃しその若い命を散華させていた。回天の部隊も遂に実戦部隊として配備された。その中には言うまでもなく仁科の姿もあった。
「貴様の部隊は二十日に出撃だ」
「二十日ですか」
「そうだ」
苦い思いを必死に噛み殺した司令官からの言葉だった。
「多くは言わん。わかったな」
「はい」
司令官のその言葉に静かに頷く。
「それでは司令。今まで有り難うございました」
「うむ。何か言い残すことはあるか」
司令は仁科にそれを問うた。簡素な司令室にいるのは二人だけだ。彼はあえて仁科をこの部屋に呼び話をしているのである。
「あったら聞くが」
「宜しいでしょうか」
「うむ。ならば言ってみろ」
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