第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
七月二十九日:『息吹くもの』
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。何の衒いもなく、嚆矢は黒子に本心を述べる。そして黒子は、それを受けて……天を仰いだままの彼の横顔を強く見詰めていて。
だから、血が流れそうな程に握り締められた拳は……視界の端にしか、捉えられていなくて。
「もしもの話、そんな人間が……正義でしか誰かを救えない時。そいつは正義を行っていいのか。そいつは────胸を張って、誰かを救っていいのか。それが、俺には分からない」
「……………………」
さわ、と風が吹き抜けた。土の臭いを孕んだ、夕暮れの涼やかな風だった。『馬鹿を言うな』と、『恥知らず』と糾弾するような、過去から吹くような強風だった。
雲が、細く流れている。上空でも、風は強烈に吹いているらしい。怒りに任せたかのように、だろうか。
「わたくしには、よく分かりませんの。所詮は小娘ですし」
「……そりゃ、そうだよな。アハハ、ゴメンね」
漸う、帰ってきたのはそんな言葉。否、少し考えれば当たり前のような気もするが。
そもそもこんな内容、親友でも尻込みしそうなもの。それを、知り合って二週間ほどの相手に何を相談しているのか。今更に、厚顔さに顔が熱くなる。後は誤魔化すように、笑うしかなくて。虚無的な笑顔を浮かべて、黒子を見遣り。
「ですが……もしもそれが、大事なものなら。わたくしは正義だの悪だのを論ずるよりも先に、動きますの。後悔だけは、したくありませんから」
「─────」
その眼差しが、見詰め返された。美しく透き通った、決意に満ちた瞳。目映いばかりの、輝きを称えた……若き瞳だ。
対し、なんと濁ったものか。その瞳に映る、己の硝子玉の如き瞳に……心底の失望を覚えながら。
「……そう、か。そうだな。どのみち、やらなきゃ何も変わらないか」
ただ、それだけを呟いて。正真正銘、絶望しながら。そもそも、そんな権利すら無かった事を思い出して、苦く笑う。
取り出した煙草、それを銜えて。黒子が何かを言う前に、火を燈して紫煙を燻らせる。
「……有り難う、黒子ちゃん。お陰で、やるべき事が分かった」
立ち上がり、飲み干していた缶コーヒーを投げる。それは確率に導かれ、過たずに屑籠へ。
吹き抜ける風に、紫煙を靡かせながら。決意を満たした瞳で、嚆矢は歩き出す。黒子を置いたままに。
『軟派な彼』ならば、絶対にやらないような不手際だ。だが、今の『硬派な彼』では望むべくもない。
「……軟派でも大概ですけど、硬派も大概ですのね。あの人……」
歩き去る嚆矢から目を離してカフェオレを含みつつ、黒子は呟いた。風紀委員であり、一応は『合気道』を齧った彼女。そんな俄の身からしても、今|
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