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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
七月二十九日:『息吹くもの』
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貰ったマネーカードは家賃や光熱費を払っても、まだまだ潤沢だ。
 差し入れ、釦を押す。芋サイダー……ではなく、その隣。椰子の実サイダー……でもなく、黒豆サイダー……でも、勿論なく。普通のブラックの缶コーヒー。

 そして、カフェオレ。いつもの癖で、当ててしまったのだ。

 カシャリとブラックのタブを開け、煽る。冷たい苦味が心地よく、喉を滑り落ちていく。人心地つき、溜め息を溢して。

「…………」

 近くのベンチに腰を下ろし、脚を組んで空を仰ぐ。極彩色に染まり行く空、逢魔ヶ刻の暮空を蜂蜜色の瞳で。

『とうまのとこ、もう行っても大丈夫だよね? ね、こーじ』
『あぁ、勿論。付いててやりな。けど、騒ぐのは』
『うん!』

 苛立ち紛れに、金色の髪を掻き毟る。その胸に去来する思いがある。雲丹じみたツンツン頭の少年と、白い修道女(シスター)
 手当てを終え、眠る少年へと脇目も振らずに駆け寄った少女。微笑ましいその純粋、微笑ましいその無垢。あれは……己が『護りたい』と願ったものではなかったのか。

「…………っクソ」

 関係無い。あれはただ、偶然に交わっただけだ。涙子の時とは違う、あれは『非日常』だ。だから、深入りする理由などはないのだ。

 それでも。訴え掛けるものがある。あのステイルだけでも、限界以上を発揮して、且つ運に味方されて倒す事が出来た程度の己。加えて、未知数の『日本刀の女』……確か、『神裂 火織(かんざき かおり)』と言ったか。『女』という、飛び切り致命的な弱点。
 あれらが、何を望んで何をしようとしているのか。全く関わり合いの無い己には、知る由もない。己には、関わらなかった己には……それを知る権利すら、無いのだ。

 鬱々と、気分が沈む。自らの浅薄を恥じ入るばかりだ。何より、上がらない腰に。動こうとしない脚に、失望して。

「……何を悩んでいるんですの、貴方らしくもない」
「────黒子、ちゃん」

 そこに、珍客が。撒かれたと思っていた、黒子だ。彼女が、いつの間にか隣に腰を下ろしていた。

「貴方、分かりやすいんですもの。お姉様と一緒で、顔には『悩んでます』ってでかでかと出してるくせに、態度では示さないんですから」
「…………」
「ふぅ……これは重症ですの」

 そんな、年下から小馬鹿にされた所で反駁の言葉すらも出ない。余りに図星で、返す言葉もなく。
 代わり、差し出したカフェオレ。彼女はそれを受け取り、やはりカシャリとタブを開けて。

「これはもしもの話なんだけどさ……正義を行うには、資格がいる。そいつには、無い」
「…………」
「そいつは……限りない『悪』だ。それも、最も唾棄されるべきの。そんな、人間だ」

 『女性に問われた』からには、嘘も詭弁も使えない
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