第一章
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り敵を怖気づけさせるのです。さすれば勝利は見えます」
「最早。そうしなければならないというのか」
提督はそれを聞いて呻いた。呻かざるを得なかった。
「今は」
「残念ですが今の戦局は」
二人は俯いて述べてきた。
「我が国にとっては」
「本来ならば我々もこうしたことは申しません」
ましてや相手は提督だ。尉官が簡単に意見を述べられる筈もない。しかも提案していることは死を前提としている。損害を恐れないといってもそうした問題ですらなかった。
「しかしこのままでは日本は」
「敵に蹂躙されてしまいます。ですから」
「あえて死ぬというのだな」
「はい」
二人は提督に対して答えた。
「我が国の為に」
「あえてこの命を」
「無駄に死ぬわけではないか」
提督はそのことを思う。戦場で死ぬのは当然だ。しかしそれが無駄であってはならない。ましてやあえて死にに行くなぞ。しかし彼等はそれを無駄死にではないと主張する。彼も話を聞いているうちにそんな気になってきていた。何よりも彼等の強い心に感じるものがあった。
「そうです。だからこそ」
「開発、実用化をお許し下さい」
「今は何も言えぬ」
しかし即断は避けた。こう二人に告げるだけだった。
「だが。考えてはおく」
「何とぞ」
「御願いします」
二人はなおも引き下がらずに言う。それだけ必死であるということだった。
「考えておくから今は下がれ」
しかし提督は今は二人を下がらせるだけであった。彼としても今は二人に冷静さを取り戻してもらいたいという考えがあったのだ。
「わかったな。よいな」
「・・・・・・はい」
「それでは」
ここまで言われてようやく退くのであった。だが二人の考えは変わらなかった。木造の廊下を並んで歩きながら話をしていた。
「黒木大尉」
中尉の階級の男が大尉の男に声をかけてきた。
「このままでは危ういのではないでしょうか」
「回天の開発と実用化だな」
「そうです。このままでは」
「わかっている」
黒木と呼ばれたその男は彼の言葉に応えた。
「このままではな。確かにその通りだ」
「ではどうされますか?」
「他の方にもお話しよう」
黒木はそう中尉に告げた。見れば彼の顔にも焦りがある。彼とても時間を無駄にはできなかったのだ。
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