下忍編
形見
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それが出来ないだろうから。せめて、せめて、カトナにはそれが出来てほしいのです。
目を細めれば、その海が深さを増して、青みを帯びた瞳は希望を宿す。
カトナ、と。
まだ生まれていない子供の名前を、もう一度、ミナトは呼んだ。
声は返ってこなかったけれど、とんとんと、クシナの腹を蹴飛ばした衝撃を感じて、ミナトは嬉しそうに顔を緩ませた。
遠い過去だと分かっていても、その情景を思い出した自来也は、吐息をひとつ漏らし、酒を煽った。
昼から酒なんてと、意外と生真面目な弟子たちからすれば、絶対に怒鳴りつけるだろうと考えて、守れなかったものの重さが、胸に、しみた。
青い瞳の少年と赤い髪の少女は恋に落ち、好きになって、愛し合って、大人になって、幸せを掴む前に死んでしまった。
もしも、と思う。
もしもあのとき自分が居たならば、弟子を、そして弟子の妻を死なせなかったかもしれない。
もしも、自分が居たならば、彼等はあんな思いをしなくてすんだかもしれない。
まだ幼い子を思い出す。
憎しみは未だ風化せず、滞って、凍えて、この里の中に蔓延している。
向けられる悪意を一人で抱えた、かの子供を思う。
あの子への悪意は、関係無いものさえも向けられる。自分がきれいでいたいが為に、何の罪もなく、けれど周りが納得し、抵抗してこない子供に全てを押し付けている。
そして何よりも厄介なのは、かの子供がミナトが籠めた名前の呪いに、囚われてしまっていることだ。
かとな、かとな。
お前はきっと様々なものを渡されるだろう。
かとな、かとな。
それをお前には捨ててほしくないんだ。
かとな、かとな。
誰かの悪意を受け、聞いてあげてくれ。
かとな、かとな。
名前が彼女を縛り上げる。
渡された悪意を、押し付けられた悪意を、行き場のない悪意を、全てを抱き続けるは、あの子の役目。
かとな、かとな。
痛みも苦しみも分かち合えなくてよい。自分一人が耐えれば、すむ話なのでしょう?
かとな、かとな。
意味を履き違えたあわれな子供。
かとな、かとな。
一人ですべてを抱えあげてしまった悲しい子供。
欲しいものはなにもないと、悪意で満たされた腕を広げ、傷だらけの体で笑って、それの何が幸せなのだろうか。
四代目、お前は少し名付け方を間違ったようだと思いながら、自来也は酒を口に含んだ。
今日はひどくよって、今まで考えていたすべてを忘れ去ってしまいたいような、そんな曖昧でいて確実な衝動に
襲われていた。
里人がカトナにどうしてそこまで悪意を向けるかも。
カトナがどうしてあそこまで感情を押し殺しきってしまったのかも。
知りたいようで、分かりたいようで、わかりたくなくて仕方なかった。
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