小さな約束
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った。幼年学校の成績ならば金でどうにかなるかも知れないが、同盟軍との戦いではコネも金も通用しない。
身分も地位もなくても、自分の才力で帝国元帥の地位にまで上り詰めた。
帝国軍三長官を兼任なされたのは閣下が初めてで、同時に帝国軍最高司令官も務められ、現在は帝国宰相の地位にある。
閣下は僕の為に勝とうと言って下さった。
もちろんそれは、あの時勇気を振り絞って声をかけた僕に対する励ましか、自惚れてもいいとすれば礼のような気持ちだったろう。それでも十分過ぎるほどうれしかった。
その日の晩は興奮で眠れず、翌日赤い目をしていて回りの人に心配をかけてしまうくらいに。
閣下が熱を出され、僕が医者を目指していることを知っていたフロイライン・マリーンドルフがお世話することを命じて下さり、それには心から感謝した。
まだ見るからに幼ない僕が艦に乗っていることに気づいたフロイラインは、何かというと目に掛けて、優しく声をかけて下さった。
僕の父が軍医で、僕も軍医を目指していることを何かの折りに話した。そのことをきちんと覚えて下さっていることにも感激したのに、それを理由に閣下にお仕えさせていただけるとは、夢にも思っていなかった。父から少しは話を聞き、自分でも興味があったので本を読んだりはしていたが、僕はまだ医学生でも何でもなく、医者になりたいと憧れているだけの子供だったのに。
「エミール・フォン・ゼッレ」
廊下を歩いていると急に名前を呼ばれ、僕は声の方を振り向いた。名前を呼ばれることそのものは珍しくはないが、それが女性の声であり、人目を憚るような小声だったのが意外だった。
この艦に乗っていて、しかも僕を呼び止める人は一人しか知らない。
「はい、何でしょうか、フロイライン・マリーンドルフ」
僕は年長の者に対する敬意と、女性に対する礼節を持って丁寧にお辞儀をする。
手招きされるまま、僕はフロイラインの方へ歩み寄った。するとフロイラインはさらに僕を自分の私室へと促す。
「あ、あの……?」
僕はこれまでフロイラインの私室に入ったことなどない。それ以前に女性の部屋に入ったことも。帝都に妹がいるが、もちろんそれは別だ。
入り口で躊躇していると
「早く入って、人に見られないうちに」
そうせかされ、僕は急いで室内に入った。
「どうも……失礼いたします」
本当なら室内に入る前に挨拶すべきだったが、しないよりましだ。
公爵閣下の秘書官として、待遇は中佐扱いとのことだが、女性だということもあるのだろう。他の人の部屋を全部見て回ったわけではないが、ブリュンヒルトの中では閣下の次か、その次くらいにいい部屋のように思えた。
戦艦の中のせいか、それともフロイラインの性格なのか、
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