二十二話:歪みだす歯車
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たにゃ。ルドガーは私が買い物に行っている間に昼寝でもしておくにゃ」
「いや、別に眠たくない―――」
そこまで言って、黒歌の指で口をふさがれる。女性特有の肌の柔らかさが唇を通して伝わってくる。そんな状況に訳が分からずに黒歌を見つめるが相変わらず目を合わすことは出来ない。そんな俺に黒歌は少し悲しそうな表情を見せるが直ぐにそれを隠して俺に諭すように話しかける。
「……夜、眠れてないんでしょ?」
「え」
「はあ……鏡を見てみるにゃ。目の下に立派な隈が出来ているにゃ」
そう言われて、手鏡を取り出して自分の顔を見てみる。
若干青ざめた顔に、目の下にくっきりと出来た隈が良く似合っている。
……俺、こんなに酷い顔をしていたんだな。
これじゃあ、誰から見ても眠れていないのは一発で分かるな。
はあ……心配をかけさせたくないんだけど、これじゃあ、無理だよな。
何とか、いつもの様に笑って……俺らしく笑って安心させてやらないとな。
「心配してくれてありがとうな、黒歌。言われた通りに昼寝でもするから安心してくれ」
そう言って笑いかける。でも、黒歌はそんな俺の表情を見てさらに辛く悲しそうな顔をする。どうしてそんな顔をするんだ。もしかして俺は上手く笑えていなくて酷い顔になっているのだろうか。それならもっと上手く笑わないとな。そう思って再び笑いかける。
そんな俺に対して黒歌は相変わらず、いや、さらに辛く悲しそうな顔をする。
……どうして、そんな顔をするんだ。俺はただ、君を安心させてあげたいだけなのに。
もしかして……今の俺は彼女をいつか自分の欲望の為に切り捨てる“物”としか見ていないのだろうか? そんなことは……そんなことはないと信じたい。
でも………俺は彼女を捨てる選択をするかもしれない。
「……それじゃあ、行ってくるにゃ」
そんな俺を残して家から出て行く黒歌。……俺はどうしたらいいんだろうな。
これも自分で選択するしかないのか……。自分自身でまた何かを切り捨てる選択を。
過去を捨てるか、今を捨てるか……その選択が俺に出来るのだろうか。
あの頃ならエルの為と思えば悩んでも選択が出来た。でも……今の俺にエルはいない。
“生きる意味”が存在しない……。そんな…そんな俺が―――生きていていいのか?
……とにかく、眠たくはないけど黒歌に言われた通りに寝よう。
また、心配はかけたくはないからな。
そう結論付けて俺は自室に戻って、ベッドに横たわり、一向に重くならない瞼を閉じた。
『は、離して! このままじゃ……』
地獄へと続く扉かのようにポッカリと空いた穴に落ちていきそうなミラ。
そして、それをさせまいと必死に彼女の腕を掴み続ける俺。
ああ…これはあの時の夢なのか? ミラ
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