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Lirica(リリカ)
ヴェルーリヤ――石相におけるジェナヴァ――
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の残滓が、今の己の殺意に呼応したのだと、ヴェルーリヤは無理やり納得しようとしたが、不穏な予感は消せなかった。

 ※

 陸を剣で追われ、浜から矢を射かけられ、ヴェルーリヤは傷ついた姿で神殿に逃れつくと、床に倒れ伏した。斬りつけられた傷からは止むことなく血が流れ、床に血だまりを作った。
 いつ死んでしまってもおかしくない状態であった。水や大気の精霊を感じる事もできないほど感覚が鈍り、力も落ちていた。
 このまま死んでもいいと思った。
 人間は、自分には理解の及ばぬ存在であった。人間は、誰かを陥れ、傷つけて喜ぶような存在だった。傷つけ、蹂躙し、征服せずにはおれぬ存在だった。その誰かが、自分を助けた者であっても。
 救いたいと思った。愚かだった。間違っていた。
 昏睡と覚醒を繰り返しながら、それでもヴェルーリヤは何日もかけて神殿の最上階に上りつめた。群晶の間にたどり着いた時には、生命の危機は脱していた。切り刻まれ、血がこびりついた衣のまま、群晶に縋りついた。そして、一番大きな水晶に額を寄せながら、父なる神ルフマンの名を呼んだ。
「父よ、人間は私が思うていたようなものではなかった」
 目尻からあふれた涙が、水晶を伝い落ちた。ヴェルーリヤは慈悲を乞い、自分をもとの姿に返してくれと願った。水晶の中には煙が渦巻くばかりで、何者も、彼の声には答えなかった。
 ヴェルーリヤは傷が癒えるのを待ちながら、夜な夜なジェナヴァの町に意識を飛ばした。
 総督の政策によって、ジェナヴァの町はにわかに金のまわりがよくなった。人々は目先の富に惑わされ、以前よりもはるかに安い値で扱き使われているのだが、彼らがそれに気付く様子はなかった。
 思い返すもおぞましい施療院でのあの夜、ギャヴァンの施術師によって失われた右腕を取り戻した男は半月後の晩に、またその右腕を失った。突如消え失せたのだ。あの施術師の奇蹟など、限定的なまやかしに過ぎなかったのだ。男は施療院に出向き、施術師に縋りついた。術の継続を望むなら、報酬を支払えと施術師は言った。そして、報酬額を教えると、呆然とする男をそのまま追い返した。同じような人間達が、他に大勢いた。一時の奇蹟は彼らをより惨めに、より孤独にした。
 傷が癒えても、ヴェルーリヤは神殿から出て行かなかった。ここにいれば、苦痛に呻く人々の声も、自分に対する中傷や罵声も、聞かずに過ごす事ができた。
 そうしてジェナヴァの町に切なげな視線を向けて過ごす内、ジェナヴァの地霊の黒い怒りが地の底で膨らむ気配に気がついた。ジェナヴァの地霊たちは暗闇と静寂を好む性質を持っていた。ギャヴァン信仰がもたらされ、夜がいつまでも明るくなると、地霊たちの不満は怒りに変わった。その怒りは日毎夜毎に高まった。このまま人々の暮らしが変わらなければ、間もなくジェナヴァの町に目
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