A's編
第三十二話 裏 後 (クロノ、リィンフォース、グレアム、リーゼロッテ、なのは)
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クロノ・ハラオウンは時空管理局に与えられた執務官室の中で一人、目をつむって何かが起こることを待っていた。
リーゼアリアとリーゼロッテによって閉じ込められてからかなり時間がたとうとしていた。闇の書の封印の計画はもう最終段階まで進んでいてもおかしくはない時間帯だ。
本音を言えば焦燥が募る。しかしながら、いくら慌ててもクロノができることは全くと言っていいほどない。この状況を打破するための一手が足りないのだ。ならば、その一手が出てくるまでは体力を温存し、すぐに動けるようにしなければならない。
クロノはグレアムが言うことも少しは理解できた。確かに、グレアムの策は対処療法にしかならないとしても、有効な一手であることは認めなければならない。だが、だが、それでも、それでも、だ。クロノは誰かが犠牲になる策を認められない。
それを認めてしまっては自分は執務官という地位にはいられないだろう。
ただ救えばいいというわけではない。ただ護ればいいというわけではない。求められるのは最善なのだ。誰も犠牲にせず、何も失わないい結末を望まなければならない。それが理想だということは知っている。強硬派が知れば、夢想だと鼻で笑うだろう。だが、それでも、それでも、クロノは理想を追い求める。理想すら追い求めることをやめてしまえば、その先を望むことができないからだ。
グレアムがそれを理解していないわけがない。何が彼の信念を曲げてまでこのシナリオを描かせたのだろうか。責任感だろうか、後悔だろうか、贖罪だろうか。クロノにはわからない。わからないが、それを気にすることはできない。分かっていることは止めなければならないということだ。
犠牲になろうとしている八神はやてのためにも、グレアムのためにも。
「……そろそろ、来てもおかしくないのだが」
クロノは壁に掛けられた時計を見ながらひとりごとのようにつぶやいた。
こうなるかもしれない、何らかの方法で手が出せないようにされるかもしれないということは、どこかで予想していた。可能であれば、そんなことにはならないでほしいとは願っていたのだが。
そんな自分の懸念が当たってしまい、残念に思っている中、不意に頑なに閉じていた扉がシュンという短い音を立ててあっけなく開かれた。執務官の執務室が並ぶ機密性の高い区画にあるクロノの執務室を訪ねられるのはごく一部の人間だけだ。
”常に最悪を想像しろ。現実はそれを容易く超えてくるぞ”
それは、彼の師であるギル・グレアムの言葉である。執務官になったときに言われた言葉だ。長年、英雄と言われ最前線を生きてきた提督の言葉だ。そんな言葉をクロノは蔑にすることはなかった。
―――提督、どうやらあなたは僕が想像した最悪を越えることはできな
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