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リリカルってなんですか?
A's編
第三十二話 裏 中 (フェイト)
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 存在意義―――自分が此処にいる理由、此処にいてもいい理由。

 たとえば、それを社会的な地位に見出す人もいるだろう。

 たとえば、それを自らの才覚に見出す人もいるだろう。

 たとえば、それを趣味に見出す人もいるだろう。

 たとえば、それを他人に見出す人もいるだろう。

 たとえば、それを家族に見出す人もいるだろう。

 星の数ほどある各々の存在理由。それをとある少女―――フェイト・テスタロッサは、母親に求めた。

 母親が願うから、母親がかくあれと願うから、だからフェイト・テスタロッサは、それに従った。母親に褒められること、笑ってもらうこと、名前を呼んでもらうこと。それが彼女の存在理由だった。

 彼女の年齢が一桁であることを考慮すれば、それは全く自然なことである。子どもは、親からの愛情を受け取ることで、此処にいてもいいと実感することができるのだから。あるいは、彼女の寂しがり屋な性格も起因していたのかもしれない。

 しかし、彼女が求める存在理由を知ってか知らずか、彼女の母親―――プレシア・テスタロッサはフェイトの求めにまったく応じようとはしなかった。褒めることもなく、笑うこともなく、名前を呼んだとしても、それは常に暗い影を映したような陰鬱な声。当然、フェイトが聞きたいのは、そんな声ではない。

 その理由には、フェイトが知らない理由があるのだが、そんな理由を知る由もない彼女は、自分の頑張りが足りないからだ、自分に理由を見出してしまう。年齢が一桁の少女に親のことを疑えというのは酷な話だ。

 だから、彼女は頑張った。母親の願いをかなえてあげようとした。その先に彼女が望んだものがあることを信じて。

 だが、その信じたものは、あの日―――母親に真実と決定的な一言を告げられたあの日に木端微塵に砕け散ってしまった。ぱらぱら、と彼女の信じたものがガラスの欠片のようにきらきらと輝きながら砕けていく。彼女が信じた未来は、永遠にその小さな手の平に収まることはなく、砂のようにサラサラと指の間を抜け落ちていくようなものだった。

 その瞬間、彼女は彼女の存在理由を失った。彼女は、母親のために生きていた。うっすらと残る記憶の様に母親に笑ってほしくて、褒めてほしくて、名前を呼んでほしくて。だから、頑張れたのだ、だから、どんなにきついことを言われても頑張ろうと思えたのだ。

 なのに―――信じたものは、すべて、すべて贋物で、自分は失敗作で―――

「ゴミが。ここは、アリシアが眠る場所よ」

 ―――もう、どうでもいいかな。

 フェイトは目をつむる。自らの存在理由、立ち位置を失った彼女にとって、現世とはどうでもいいものであった。

 パリンという心に罅が入るような音を立て、すべてを手放し諦め
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