A's編
第三十二話 裏 中 (フェイト)
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―たとえ、フェイトが新しく見つけた居場所を追い出されようとも。
バルディッシュ―――彼女のデバイス。寡黙なデバイスではあるが、フェイトが力を振るうときいつだって力を貸してくれた。何より、幼き頃からともにあり、ともに成長してきた相棒だ。
嗚呼、どうして忘れていたのだろう、とフェイトは後悔する。確かにフェイトは報われなかったのかもしれない。救われてなかったのかもしれない。自分が望んだ居場所を得ることができず、そのための努力もすべて否定されたのだから。
だが、だが、それでも彼女はどん底ではないことに気付くべきだったのだ。一人ではないことに気付くべきだったのだ。自分には母親しかいないと思っていた。だが、それは違ったのだ。それが当然過ぎて、母親にしか意識が向いてなくて、こうして見捨てられて、否定されて、指摘されて初めて気づいた。
―――自分は一人ではなかったのだと。
それに気づいたとき、彼女の瞳からは自然と涙が流れていた。
気付かなかった自分の愚かさを嘆いて。自分が一人ではなかった、ずっと見守ってくれている人がいたことに歓喜して。
「わたしの………私たちのすべてはまだ始まってもなかったのかな? バルディッシュ………」
彼女が一人ではないことに気付けていなかった理由。それは、フェイトの意識がすべて母親―――プレシアに向かっていたからだ。周りに意識が向かないほどに。なぜ? それは、すべての真相を知ってしまった以上、フェイトだって気づいていた。そういう風にプレシアが仕組んだからだ。都合のいい手ごまにできるように。そこには、フェイトの意志は存在していなかった。いや、あったかもしれないが、気付いていなかったという点では存在していなかったといってもいいだろう。
だからこそのフェイトの言葉。彼女は彼女の意志で始めてすらいなかった。
―――Get set.
そんな彼女を慰めるように金色の寡黙なデバイスは端的に答える。大丈夫だ、と幼年のころからともにあった相棒ともいうべき存在がそっと小さく背中を押してくれた。
「私は………ここから始めていいのかな?」
許しを請うように、認めてくれるようにフェイトはアリシアへ視線を向ける。
「違うよ、フェイト。始めていいんじゃない。始めるべきなんだよ。ずっと一緒にいてくれた人がいて、隣に支えてくれる人がいて………一人で始めるのは怖いかもしれない。でも、今なら、フェイトを支えてくれる、見守ってくれる人がいる。今、始めなくて、いつ、始めるの?」
答えは最初から決まっていた。これだけお膳立てさせられて、これだけの好条件がそろっているのに躊躇する理由がどこにあるというのだろうか。そんなものはどこにもない。
だから、彼女はそっとずっと手を伸ばし
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