A's編
第三十二話 裏 中 (フェイト)
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の渇望は前者を支持し、傷つけられ絶望に染まった心は後者を支持する。果たしてどちらが正しいのか、フェイトにはわからない。だが、それでも、それでも、ふと脳裏に浮かんだこの場所で見続けてきた蔵元家という家族の肖像を想う。それが、わずかにだが、信じるという選択肢の天秤の針を傾けた。
だからだろう、自分でも気づかないうちに己が望む本当の渇望を、想いを口にしていた。
「ほんとうに………アリシアではない私を、妹として認めてくれますか?」
それが本当のフェイトの願い。ただ、ただ認めてほしいのだ。フェイト・テスタロッサという一人の少女を。アリシア・テスタロッサの贋物でもなく、蔵元アリシアの代わりでもなく、フェイト・テスタロッサを認め、いてもいいという居場所が欲しい。それが本当の願いだった。今までは、その居場所は母親の隣にしかないと思っていた。それ以外の場所には意味がないと思っていた。
だが、だが、それ以外の場所もあった。フェイト・テスタロッサが望んだ自分だけの居場所。自分がいてもいい場所。自分が自分でもいい場所があるかもしれない。
今までどれだけ望んでも手に入れられなかった居場所に手が届きそうだと思うとフェイトの心臓は高鳴る。そして、彼女が一縷の望みを託した少年は、一瞬だけ何を言われたのかわからないというような表情で、きょとんとした表所を浮かべた後に笑みを浮かべてフェイトが心の底から渇望した、ずっとずっと投げかけてほしかった言葉を紡いだ。
「もちろんだよ。君はアリシアちゃんじゃなくて、フェイトちゃんだ。それでも、やっぱり君は僕の妹だよ」
まるで泣きじゃくる小さな子供に偶然入っていた飴玉を差し出すように当然の様にフェイトが臨んだ言葉を口にしながら蔵元翔太という少年は、座っているフェイトに対して腰をかがめながらその右手を差し出した。
「君が笑えることがあれば一緒に笑うし、悲しいことがあれば一緒に悲しむし、寂しいのであれば一緒にいるよ。そんなどこにでもいる兄妹だよ」
はたしてそれはどこにでもいる兄妹だろうか。フェイトにはわからない。だが、それでもこの少年が彼の隣にフェイトを望んでいてくれていることは理解できた。アリシア・テスタロッサの代わりでもなく、偶像の蔵元アリシアでもなく、彼は目の前のフェイトを、今までの妹が虚像と言われたにもかかわらず、ありのままのフェイトを受け入れようとしていた。
本当のことを言うのであれば、フェイトは今すぐにでも彼の言葉に飛びつきたかった。飛びついて彼の隣を自分の居場所としたかった。望んで、望んで、努力して、頑張って、その先が報われない未来で、手に入れることができなかった自分の居場所。それが、周り廻ってようやくフェイトの目の前に現れたのだ。それに飛びつきたくないわけがない。
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