A's編
第三十二話 裏 前 (リィーンフォース、はやて)
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この小さな愛すべき主を安らかな眠りのままにともに逝くことである。
たったそれだけのこと。だが、管理人格といえども、起動した直後から徐々に闇の書の防衛プログラムに大半の権限を奪われつつある現状ではそれが彼女の精一杯だった。
―――ああ、こんな結末は望んでなどいなかった。
期待したわけではない、というのは嘘だろう。今回の旅路は今までとは毛色が相当違った。守護騎士たちは家族として迎え入れられ、時空管理局が接近してきた。
自分の身は仕方ないにしても、主の無事だけでも願うことが悪いことだろうか。
だが、それも期待外れだった。結局、終わりはいつもと同じ。ただ、歩んできた旅路が一歩一歩破滅へと向かうための一歩ではなく、光がさす方向に向かって歩き、突如として奈落へと落とされるようなものだったというだけの話である。
「申し訳ありません、主」
考えれば考えるほどに後悔の念が堪えず、再び頭を下げる闇の書の管理人格。
助けたかった、幸せになってほしかった、孤独など感じてほしくなかった。守護騎士たちに感情を与えてくれたこの小さな主に、ほんのささやかな幸せを望んでいた。望んでしまっていた。彼らの笑顔と、主の笑顔を見ていれば、それが叶うような、そんな幻想さえ見せてくれたような気がした。
―――自分の存在は、彼女が望んだものとは対極に位置するというのに。
「私など―――存在しなければよかった」
唇を噛み切ってしまいそうなほどにきつく結び、拳は関節が白くなるほどに握り芽ながらポロリとこぼれた言葉。それが彼女の本心だった。ただ、自壊すら許されないこの身が、ただただ口惜しい。
「そんなこと………いうたら……あかんよ」
だが、彼女のそんな本音をとがめる声が彼女の下から聞こえてくる。その声はかすれており、とぎれとぎれで聞き取りにくいものだった。だが、それでも、それでも彼女が―――闇の書が聞き逃すはずもない。なぜなら、その声の持ち主は彼女が敬愛すべき主なのだから。
なぜ? と彼女は思う。彼女は今、管理人格によって眠らされているようなものなのだ。彼女がそれを願ったから。せめて最後は幸せな夢を見ながら安寧の中で安らかに逝ってほしいと願ったから。だから、彼女が口を開けるはずもない。
だが、そんな事実をひっくり返して―――それでも眠いのだろう。目を瞬かせ、眠いのを必死にこらえながら、主である八神はやては言葉を続ける。
「私は幸せやった。………シグナムとヴィータとシャマルとザフィーラに出会ったことは、みんなと過ごした日々は幸せやった。それは否定できん。いや、否定したらあかん。それは、闇の書がなかったらなかった出会いや」
―――だから、存在しなければよかったなんて、悲しいことは言わんとい
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