第三章
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第三章
「では今から連中に見せてきますので」
「そうして参ります」
「頼んだぞ」
整備隊の隊長がだ。男泣きで彼等に告げた。
「それではな」
「有り難うございます」
「それではこれから」
二人だけでなくだ。他の特攻隊の者達もだ。
誰もが清らかに微笑み各機に乗り込みだ。見送る戦友達に手を振って別れを告げた。そうして彼等は全てその心を見せたのだった。
戦争は終わった。それから長い歳月が経った。
靖国は今は春だ。その満開の桜の中で。
和服を着た品のいい老婆がだ。まだ小さい男の子の手を取ってだ。
優しい声でだ。こう男の子に言った。
「ねえ伸ちゃん」
「何、ひいお婆ちゃん」
「ここにはね。伸ちゃんを護ってくれる人達がいるのよ」
「僕を?」
「そう、伸ちゃんをね」
護る人がいるとだ。老婆は曾孫の伸ちゃんに話すのだった。
「その人達がいるのよ」
「この神社に?」
「そう、靖国神社にね」
まさにだ。この社にだというのだ。
「皆がいるのよ」
「そうした場所なんだ」
「戦争があってね」
老婆は優しい顔で社を見ながら話していく。
「沢山の人達が日本の為に死んで」
「死んだの」
「そうなの。そしてその死んだ人達が集っているのよ」
「ここになんだ」
「そうよ。ひいお婆ちゃんはね」
老婆はだ。今この場所にいてだ。
あの時の二人に会ったことを思い出して話したのである。
「戦争が終わりそうな時に二人の軍人さんに会ったのよ」
「それって昔のことだよね」
「ひいお婆ちゃんがまだひいお爺ちゃんと結婚する前よ」
その頃のことだというのだ。
「その時に会ってね」
「そうしてなんだ」
「そう。そうしてね」
どうだったかと。老婆は優しい顔のまま伸ちゃんに話していく。
「その人達に言われたのよ」
「ずっと日本を護ってくれるって」
「そうよ。ずっとね」
「ここにいてなんだ」
「だから。ここに来るとね」
それでどうなるかとも話すのだった。伸ちゃんに。
「その日本を護ってくれる人達に会えるから」
「僕を護ってくれる人達に」
「だからここには何かあったらね」
「うん、僕も来るよ」
伸ちゃんは笑顔になって自分のひいお婆ちゃんの言葉に応えた。
「この神社にね」
「ええ、そうしてね」
老婆もだ。伸ちゃんの言葉を聞いてだ。
そのうえでほっとした顔になって言うのだった。
「そうしてくれるとここにいる人達も喜んでくれるから」
「そうするからね」
笑顔で応える伸ちゃんだった。二人の周りに花吹雪が舞う。その花びらの中でだ。老婆は伸ちゃんと共に笑っていた。花は散ったがまた咲いていた。
花に散り雪に散り 完
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