戦場に乗せる対価は等しからず
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グビリ、と喉を通した液体の熱さに思わず眉を顰めながらも、黒髪の麗人はゆっくりと一息ついた。
暖めた酒も中々にいいモノだ。腹立たしいあの男が言っていたのでしてみたのだが、中々どうして悪くない、と一人心の中でごちる。
戦場の後、そよそよと風が吹き抜ける宵の刻。春蘭と風は次の戦いの為に部隊を休ませている最中であった。
小さな酒器で、まるで猫のように舌だけで酒を舐めている風を呆れながら見やるも、春蘭は別段何を話そうとも思わなかった。
「春蘭ちゃんは張コウちゃんの事をちゃんと考えてあげてるんですねー」
のんびりと、いつものように話し掛ける風はこちらを見もしない。ゆらゆらと波打つ酒を見つめ、またペロリと酒を舐めた。
「……」
「郭図さんを殺さずに生かしているのはあの子の心を少しでも救う為ではないですかー?」
いつもの半目からは感情が読み取れない。ジトリと見つめて、春蘭はまたグイと酒を呷った。
捕えた郭図は現在、縄で縛って簡易の檻に入れている。捕虜の袁紹軍の兵士達には決して近付けないようにもしていた。
「でも風は反対なのですよ。こちらが監視に置く兵数も減らしたいですし……何より華琳様からは生死問わないと言われていますからねー」
わざわざその為に兵数を割くのは少しばかり勿体ない。郭図が生きている限り、繋がりを使って逃げ出す可能性も考えられる。それなら、郭図を先に殺してしまった方が兵士達の掌握も遣り易く動かしやすいのだ。
この戦の最終に一人でも多く自軍の犠牲を減らして生き残らせるなら、風の意見は尤もであった。
「……例えばだ」
ぽつり、と春蘭が言葉を零す。またグビリと酒を呷って大きくため息を吐いた。
「華琳様ではない主に仕えていたとしよう。その時、秋蘭が殺された場合、もしくは張コウのような事態に陥った場合、私は自分を抑える自信が無い」
つい……視線を虚空に彷徨わせる春蘭の瞳には同情の色。
大切な人を奪われる、失う、殺される状況になってしまった時……自分がどうなるか考えてみた上で、彼女は郭図を殺さなかった。
「憎しみに染まるだろう。そして……己が無力に打ちひしがれる。誰かに八つ当たりせねば壊れてしまう程に、な。華琳様が居るから私は抑えられるが、あいつには誰も居ない。
風ならどうだ? そんな状態で稟を失う事態になった時、お前は平静を保っていられるか?」
問いかけられ、ゆらゆらと揺れるエメラルドの瞳が昏い色を映し出す。
「……さあ、起こってみないと分かりませんよ」
誤魔化すが、自分の中で答えは出ている。
きっと残酷に相手を追い詰め、追い込み、絶望させた上で命を奪う。憎しみを呑み込める程、風は優しくないし、割り切れない。
ただ、春蘭と秋蘭の関係
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