戦場に乗せる対価は等しからず
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「に、兄ちゃんって誰だ?」
訳が分からないから、とりあえず分からないモノから尋ねてみよう。猪々子の考えはそんな所。
「あ、兄ちゃんは黒麒麟って呼ばれてるよ」
「こくっ、はぁ!? なんで黒麒麟と明が仲良こよしで夕の奴を助けに行くんだよ! 嘘つくな!」
有り得ない。仮にも敵だ。裏切って直ぐに背中を預けるような事、誰もするわけが無いのだ。
たった二人でという所もおかしい。あの明が何故、張コウ隊を動かさない? 烏巣に向かったと言う事は、やはりこちらの策が成功した証だ……そう、猪々子は思う。
ただ、嫌な予感がした。目の前のこの少女は単純で真っ直ぐだ。嘘を付くなら、もっと分かり易くなるだろうとも思う。
「ホントの事だもん!」
「いいや、嘘だね!」
むっと不機嫌に表情を曇らせた季衣が大きな声を上げるも、信じてやらないと突き放す。もやもやする心の気持ち悪さを拭えずに。
自分が信じられない事を否定するその行いが、袁紹軍の策をばらしているとも、気付かずに。
「大切な人が殺されそうなら誰だって助けたいでしょ!?」
「それでもあたいが知ってる明は――――」
「田豊の言った事を信じて、曹操軍に嘘を付き通して烏巣におびき出し壊滅させるのを遣り切る、か?」
嘲りを含んだ声が上から響く。
バッと土壁を見上げれば、弩を構えた蒼髪の麗人が見下ろしていた。空いた手を静かに上げると、立ち上がる兵士が一人、二人……幾人も増えて、猪々子に狙いを定める。
直ぐに口を閉じても、もう遅い。季衣が示していたのは明が曹操軍に寝返った事。それを否定するという事は、初めから寝返る気など無かったとバラすに等しい。
単純な思考誘導だ。季衣が行うからこそ意味があって、猪々子だからこそ引っ掛かった。
「これでイロイロと確信が持てた。教えてくれてありがとう、文醜」
「……何がだよ」
「ふふ……お前の事はあまり嫌いになれそうにない。代わりと言ってはなんだが、いい事を教えてやろう」
長い髪が掛かって片方しか見えない目が、楽しげに細められた。
猪々子の真っ直ぐさが、純粋さが、自身の敬愛する姉とダブって見える。
気分よく、秋蘭は軽い声音で続けて行った。
「烏巣第五の陣、と言えば分かるな?」
自分達しか知らないはずの情報を耳に入れて、あんぐりと、猪々子の口が開け放たれる。
鈍器で殴られたような衝撃。思考の空白は隙を作る一番の敵。こと戦場に限っては、それこそが命取りと成り得る。
しかしながら、秋蘭も季衣も、彼女達に対して攻撃を加えようとしなかった。
「なん……で……」
信じたくない。自分達は明の事を信じているのだ。だから、秋蘭が言った事を、信じたくなかった。
「紅揚羽達を救いたい
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