戦場に乗せる対価は等しからず
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けでは無い。それを良く知る秋斗は、官渡に入り込まれる事を策の一つとして準備していた。そうして、ただ一人でも多く殺す為の、無慈悲な戦場を作り上げた。
袁紹軍の練度は其処まで高くない。猪々子や斗詩の部隊、そして麗羽を守る虎の子の強弩部隊くらいが曹操軍と渡り合える。
こんな状況で戦い続けては被害総数がどれだけ出るか分からない。曹操軍の数すらぼかされ、何処にどれだけの敵が居るのかも判断出来ないのだから。
その場合、どうすれば兵士達を抑えられる? 考えれば、思い至るのは一つ。
旗である将を捕まえるか殺す。そうして兵士に敗北を思い知らせて投降を呼びかけるのが普通の遣り方。だからこそ、季衣が誘っているのだと気付いて、猪々子は舌打ちを一つ。
――くっそ……あたいと斗詩が誰か捕まえないと時間が掛かり過ぎちまう。
油断は無い。自分の方が上だとは思うが、季衣は間違いなく兵とは画一された力を持っている。
それに……前はただの子供だと感じていたが、今の季衣は猪々子にとって本気を出すべき敵だと認識出来た。
「ねぇ、知ってるいっちー? 張コウって人、泣いてたよ?」
トン、と背中を土壁にもたれ掛け、語りかける声は悲哀の色。顰めた眉で、流し目を一つ。
一寸だけ、猪々子の思考は止まる。
――あの明が、泣いてた? ウソだろ……
自分が知っている彼女は決して泣かない。取り乱さないし焦りもしない。夕以外の命などなんとも思っていない女で、彼女が泣く姿など想像も出来なかった。
ああ、そうかと気付くのは計画から。嘘泣きくらいなら、彼女は出来るのだろうと。
揺さぶりだ、と思う。しかしながら、季衣の声にも瞳にも、そんな駆け引きなど全く見当たらない。
「それで?」
故に話を促した。だからなんだと、強気を込めて。
「……初めはね、ボク達を騙す為に嘘泣きしてたみたい。でも……」
あれは間違いなく本気で泣いていたと、季衣は思う。秋蘭を戦場で追い詰めた紅揚羽の姿は其処には無く、ただ一人の少女が居たのだ。
絶望の涙は前に見た。秋斗が追い詰められたあの日、季衣もあの場所に居た。純粋な子供の眼差しは騙されやすい時はあっても、真実を見抜く時もある。
――ボクも流琉が殺されそうなら、あんな風に助けてって縋り付くもん。
魏の重鎮達に於いて、片割れの消失を恐れるモノは多い。なればこそ、明の気持ちはおおまかながら理解出来た。
ぐ、と唇を噛んだ季衣は……続きを紡ぐ。
「田豊って人が殺されるって聞いて、兄ちゃんに泣き縋って、二人で助けに行ったんだ」
「……え」
口から零れたのは無意識。聞き返したわけではない。思考が追いつかずに、猪々子は茫然と季衣を見つめた。
戦場という事など、忘れてしまう程に
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